第15話

通常、プロジェクトは月に十数回の頻度で依頼が来ていたのだが、それが1カ月に3回にまで減っていた。こっそりと玲奈は引き出しから通帳を取り出した。1,2.3…通帳のゼロの数を数えながら、めまいが止まらない。うう、胃もキリキリしだしてきた。劇団うまずらの予算は限りなくゼロに近づいてきていた。このままでは本当に劇団の存続が危うい。劇団創設に至った本来の目標を達成する兆しも全く見えない。さらに今は小林兄弟や神宮まりなど、支えていかなければいけない役者たちも多く、事務員謙何でも屋、そして劇団創設者として、決して無責任に劇団を放棄できない。これまでも、劇団創設前に就職していた時の個人的な貯蓄を劇団予算に充て、現在も隙を見ては入れていたアルバイト代をつぎ込んでいたが、すでに限界が来ている。

 今月中に依頼が来なかったら、例の仕事をするかと腹を括った。先週見ていた求人サイトに、破格の高自給だが、どう見ても怪しげなアルバイトが掲載されていて、もしもの時のために、ブックマークをつけていた。濃いブルーの背景に黄色の文字で、「薬を飲んで1週間寝ているだけで高収入!」と書いてあり、歯が出るほどのなかなかの笑顔で若い男女が数人、ベッドでピースしている写真が載っていた。治験の被験者を募集しているようだが、こんな広告で人が集まるわけがないと思っていた。しかし自分のように後がない人にとっては、最後の頼りの綱みたいなものだ。ふと思いたって、玲奈はなかなかの笑顔でピースしてみた。少し気分が晴れたような気がする。プリントアウトして、壁に貼ってみてもいいかもしれない。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

目を丸くして、まりはこちらを心配そうに見ていた。信二と武に至っては、見てはいけないものを見てしまったかのように目を逸らし、

「ここのさあ、襟の角度どう思うよ」

「いや、直角っていうか、鋭角っていうかって感じかな」

即興で会話を取り繕っている。こういう時の対応は兄弟らしい連携プレーだ。

「佐々木さん、おや?八分咲きの笑顔ですか。接客する時にはね、五分咲きと、八分咲きの笑顔が大切と言われていて、八分咲きの笑顔は、お客様と会話する時に有効なんですよ。」

相変わらず間の悪い優の発言もあって、事務所には何やらカオスな空気が漂っていた。

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