第15話 イヤホン援助

「せぇい!!ジェット噴射ッスよ!!」


踵や手の甲など、様々な場所にブーストエンジンが積み込まれている麗音は、短時間なら空だって飛べる。


その推進力を活かし、刀を振る速度や踵を落とす速度を上げているのだが、如何せんエネルギー消費量が多い他、生業が大変難しいということもあって、そこら中に穴ぼこを作るにとどまっている。


それ抜きにしても強い青仮面には依然として攻撃を当てられない。


あと一歩、あと一歩の踏み込みで斬れるはず。しかし、何かが足りない。背中を押してくれる何かが。


「うわぉ!?」


両方の剣を打ち据え、同時に振り下ろした青仮面の斬撃は炎と雷を纏って麗音を襲う。既に服が焼け落ちて、限りなく人に寄せられた肌が露出している。


焼け跡や切り傷からは擬似的な血が流れ、パッと見人間と遜色ない。背中やら腕からバカバカエンジンを露出させない限りは。


「セクシーなあーしを見たいからって、そういう、ゴリ押し火力押して参る戦法はずるいッスよ!!」


防御も弾かれ、効果範囲の広い攻撃を躱すことも出来ず、少しづつ麗音の体にダメージが蓄積し始める。


脳内ではアナウンスで、活動限界が迫っていると響いた。


「やばいッスね!!昨日のメンテサボったから!!」


麗音は1週間はエネルギーをチャージしなくても動ける。毎週木曜日の夜に行われるメンテナンスと同時に補給されるのだが、昨日はサボってしまった。


何故かっていうと、メンテナンスということもあって、体の中までバラバラにされてしまう。それが気分的に麗音は嫌なのだ。


「だってその間は電源OFFで、何されるか分からないってことッスよ。感覚遮断ものとなにが違うんスか!?」


普段の鬱憤を刀にこめ、今出せる最高火力を叩きつける。それでも猛攻は凌げず、むしろ消耗戦では遅れを取っている。


このままでは、逃げるどころか生き残ることすら厳しくなる。


そう危惧した時、倉庫の天井が大きな音をたてた。


「うん?」


麗音が不思議がって上を見た。青仮面は一瞬立ち止まり、刃の防御を上に向けた。


次の瞬間、天井が大きな音を立てて崩壊。落ちてくる瓦礫の中から伸ばされた刃が青仮面の防御に差し込まれた。


「ほら、麗音」


青仮面を押さえつけつつ、淡々とした口調の声が麗音の名を呼ぶ。


そして投げ渡されたものを掴んで、麗音は目を輝かせた。


「ナイスッスねー白亜さん!!」


両耳にワイヤレスイヤホンを装着し、怜音に脳内からメールで連絡する。


『分かったよ、はしゃぎ過ぎないように。もう白亜の特攻で注目集めつつあるんだから』


連絡が返ってくると同時に、イヤホンから音漏れがするほど大きな音で激しめの音楽が流れ始めた。


「しゃぁあ!!行くッスよー!!」


「じゃあ、交代ね」


青仮面から一歩引いた白亜と入れ替わりで麗音が突っ込んでいく。


残りエネルギー僅か。これで終わる。終わらせられるくらい、麗音はこの音楽で強くなる。


「唸れあーしのブリキの足!!木っ端微塵ッスよ!!」


『ちなみに君の体にブリキは一切使用していないよ』


駆け出すスピードはさっきとは比べ物にもならない。地面が爆ぜたかと思うと、青仮面の剣に麗音の刃が重なる。


威力も段違いに高い斬撃が先程までの優勢劣勢を大きく変えていく。


炎も雷も、音楽にノリノリな麗音には通用しない。そして時は訪れる。


第1のサビだ。


「ブーストォオオオ!!!!」


叫び散らかす麗音は、ぐんぐん速度を上げ、青仮面を追い詰めていく。切り傷が目立ち始め、血を体から吹き出し始めた。


戦いは激しくなっていく。そしてそれを阻止するべく、新たな刺客がやってきた。


「S君!!」


吹き抜けになった天井からふわりと可愛らしいゴスロリ少女が降りてきた。


手にはカッターを持ち、眼帯とメイクで派手に彩られた童顔は、想い人を追い詰める敵に対する憎悪に染っていた。


「S君に近づくなぁ!!」


「ごめんだけど、あんたの相手は私」


降りて着た少女のカッターを、白亜の薙刀が弾く。


質量をまるで感じられない体の少女は弾かれた勢いのまま距離を取り、青仮面から突き放された。


「クソ女ァ!!」


「お口が悪いようね。見た目はお嬢様っぽいのに」


「黙れェ!!」


鋭い眼光が向けられる。カッターの刃が伸ばされ、許せないとばかりに憎悪を向ける。


そんなものをものともせず、白亜は薙刀を構えた。


「さぁ来なさい。ゴスロリメンヘラ女」


「殺してやる!!」


鋭い殺気と冷酷な眼差しが交差する。それが戦いの開始の合図だった。

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