第14話 届く歌声

「暇だろ坊主。なんか聴くか?」


暇そうな楼久が快斗のせいにして暇を潰そうとしてくる。


大きめのテレビで動画配信サイトを開いて振り返ってくる彼はそう問うてきた。


「俺ァ世間のことあんま知らねぇからよ。なんかいい歌とか知らねぇのかよ」


「知るか。そんなの自分で探せば……」


快斗は唯一動く首を回して窓の外を見た。丁度、そこには沈んでいく大きな夕日が見えた。


「───」


「どうした坊主」


「静かにしてくれ、今考えてる」


意外にも楼久は言うことを聞いてくれて、考える快斗の邪魔をしないように黙ってくれた。


もう死ぬ運命の快斗の願いをできる限り聞きいれてやるつもりなのか、嫌がる様子もなかった。


それは今はありがたい。快斗としてはその気遣いが無駄になるようにしておきたい所だが。


「───」


快斗は思案する。まず、思いついた作戦を成功させるには、麗音がいる方向を当てる必要がある。


その点に関しては、車で連れ去られる際にゴスロリ少女の走っていった方向だと予想できる。


彼らが呼ぶSというのは、恐らく青仮面のことだ。


その手伝いをしに行くのなら、走っていった方向に青仮面、そして青仮面ごと転移して消え去った麗音がいるはずだ。


問題は、そこから快斗が駅近くのビルに監禁されていることを知らせる方法だが、


「栄、今から言う曲を流してみろ」


「あぁ?いい曲なんだろうな?」


楼久は快斗が言った曲名を入力し、一番上にでてきた公式を聴いた。


「悪くねぇが、俺ァもっとバラードっぽい方が好きだなぁ」


なんて感想を零す楼久。


「なぁ、お前これ歌えるのか?」


「あ?」


「この曲めっちゃ速いじゃんよ。歌えるかどうかやってくれよ、面白ぇからよ」


ニヤけながらそう提案してくる楼久は純粋に面白がっていた。


体は大きく大人っぽいのに、言動と性格が子供っぽい。良くも悪くも、慕われやすいのだろう。この男は。


「で?歌えんのか?」


「……はぁ、文句は言わないでくれよ?」


「批評しかしねぇよ。何も頭ごなしに否定なんざしないさ」


「じゃあ、せめて足だけは解いてくれないか?立って歌った方が声が出る」


快斗がそう言うと、楼久は怪訝な顔をする。


「逃げるんじゃねぇのか?」


「逃げられると思うか?」


なんの能力もない快斗が殺害者楼久から逃れられるはずがなく、腕が塞がっているのなら尚更だ。


楼久はあっけらかんと言ってみせる快斗の様子に、「それもそうか」と呟いて足だけを自由にしてくれた。


楼久がタバコを吸うために開けた窓の外を眺める。ビルの影になって、月が上がり始めた地平線が暗く見える。


沈んで行った夕日。それとは全く逆の方向にいるはずの麗音に、意味が伝わるかが最後の関門だ。


まさか自分の声でやることになるとは思わなかったが。


「──はぁ」


息を吸い、快斗は歌を歌い始めた。


~~~~~~~~~~~~~~~~


快斗と同じように、小さなアパートの一室に住む2人の兄妹がいた。


保護者は分け合って家になかなか来れないが、2人は元気にやっている。


「お兄ちゃーん!!」


そんなある日、妹の方がスマホ片手に部屋に飛び込んで、腕立て伏せをしている兄に飛び乗った。


それでもなんら変わりなく腕立て伏せを続ける兄は、自分の背中に立つ妹を見上げ、


「どうした祐奈ゆうな!?何があった!?」


「出動要請だって!!怜音さんが私達を呼んでる!!『青の会』出現ってさ!!」


「なぁにぃ!!今すぐ行くぞ祐奈!!この兄貴についてこい!!」


「よっしゃあ!!行っくぞー!!」


外に飛び出した兄妹は、2人で原付に跨って目的地へ向かう。


「ナビゲーション頼むぞ祐奈!!」


「あいあいさーお兄ちゃん!!まっかせなさいな!!」


近所でも有名なおてんば兄妹は、今日も今日とて騒がしく、正義を語りに行く。


「悪いやつからは、俺が守ってやる!!」


強く意気込みを表して、原付が走り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る