第13話 夕焼け
打ち合う刃が甲高い音を響かせる。誰もいなかったはずの倉庫に突如やってきた2人は火花を散らせて走り回る。
「トゥットゥルトゥル……」
激しい足音と金属音に混ざって、軽快なリズムが口ずさまれる。
よく聞いてみれば、1人の足音はそれに合わせて動いているようにも感じられる。
そして口ずさまれる曲は徐々に変化し、テンポと音量が増していく。その度に、一撃一撃の重さが変化していく。
「追い!!つけ!!るッ!!スか!!」
地面を蹴る長い足。刃に混ざって放たれる攻撃は斬撃にも匹敵する破壊力を持つ。
空振ろうが受けられようが関係ない。
それは、麗音の奏でる曲の一部となる。全ての過程が正解であり、間違いは存在しない。間違えたと思うのなら、その間違いが正解だ。
そして通常、麗音の奏でる曲は3度、もしくは2度山場を迎える。
いわゆる、サビである。
「ノッて行くッスよ!!」
全開に発揮される能力。麗音の能力は、音楽の勢いに比例して身体能力が大幅に上昇する『ノリ』。
本当なら曲を聴きながらの方が威力が増すのだが、今は生憎イヤホンをつける暇がなかったので仕方がない。
振るわれる刀。刀身の長いそれは尋常じゃない速度で振るわれることにより、擬似的な見えない斬撃を生み出している。
が、どんなに速く動かしても、青仮面の二刀流を打ち破ることが出来ない。
青い剣を器用に振るい、時には強固な壁として自身を守り、時には最強の攻撃手段としてその威力を遺憾無く発揮する。
一歩踏み出しては一歩戻るの繰り返し。届かぬ刃がもどかしく、そして曲はいずれ終わる。
何百何千と曲を暗記している麗音。レパートリーが尽きるまでは戦える自信があるが、その中で戦闘気分を上昇させてくれるものは半分くらいだ。
何故なら、残りの半分はほとんどバラードだからである。
「クッソォ!!届かないッスねぇ!!」
リーチが長いのに踏み込ませてくれない青仮面を睨みつけながら麗音は舞う。しかしながら、曲に合わせて能力上昇が起こっている麗音に、青仮面も同様についてくる。
不可思議だ。麗音の能力が上昇すればするほど、青仮面の能力も上昇しているように感じる。
「一旦なんなんスか!!あんた!!」
戦況の変化の無さに歯噛みする麗音。それどころか、だんだん押されつつある。
殺した人数は知らないが、それでも見た目から判断するに麗音や快斗と同い年くらいのはず。
それなのにここまで厄介だと、殺した数はもしかすると麗音よりも多いかもしれない。
だが、気になるのはそれだけではない。
この青仮面の能力だ。
先程快斗と麗音を引き離したのは身体能力ではない。紛れもなく能力の一端だ。突然位置を変えたのならば、ものと位置を入れ替える、もしくは瞬間移動のどちらかだろう。
だがそれだけじゃない。絶対にそれだけの能力ではない。ソースは、今ここにある。
「なんで炎とか雷とか出せるんスか!?」
右手に青い炎。左手に黄色い雷を纏う青仮面。属性攻撃は聞いてない。麗音は超常的な攻撃に対する耐性はないので逃げるしかない。
「おかしい!!おかしいッスよ!!人1人に1能力のはずなのに!!」
炎と雷を操りつつ、瞬間移動ができる能力を、二字熟語で表現できるだろうか。
麗音が思いつくのは『全能』くらいだが、そんなチート手に入れているなら、こんな回りくどい事しなくてもいいはずだ。
「課金ッスか!?ズルッスか!?どっちにしてもクソきしょいッスね!!」
「逃げないで。時間がかかるから」
「寿命を伸ばすことを怒られる筋合いはないッスよォ!!」
倉庫の中が地獄に変わっていく。足をつけられる場所が少なくなり、逃げ場がなくなっていく。
まずい。ここで死ぬのは非常にまずい。それは自分の都合と言うよりかは、仲間達のことを考えてのことだ。
ここで麗音が死ねば、青仮面に麗音の殺した人数を奪われてしまう。これ以上青仮面を強くさせる訳にはいかない。
それもあるが、快斗も救わなければならない。怜音は動き出しているだろうが、快斗の場所は明らかになっていないはずだ。
「ちくせう!!せめて方向でも分かれば、教えてあげられるッスけど……」
轟々と蠢く炎を身を傾けて豪快に躱し、叩きつけられる雷を刀で斬り伏せ、放たれる斬撃を斬撃を持って相殺する。
死線を潜り続け、命を危機を着々と感じていた。
その時、環境音ではない何かが聞こえた。
「うん?」
気分が高揚する。昔ハマっていたことすら忘れていた曲に偶然出逢えたような喜び。与えてくれたのは、どこからか聞こえる歌声だ。
そして、その曲はネットの曲が好きな麗音なら絶対に知っているような有名曲で。
「トゥットゥットゥットゥル」
口ずさむリズムに歌詞が脳内で上乗せされる。そして、その歌詞の意味を紐解き、その歌声のリズムから考えて次に到達する歌詞を思い出して──
「そういうことッスか!?天才現るってやつッスね!!」
そう叫び、麗音は刀をある方向へ向ける。
その先に何があるかは麗音は知らないが、その方向を示すものは覚えている。
夕焼けに吸い込まれて消えていくような景色が広がっていたはずだ。
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