第12話 場所の解明
「やっちまったッスね……」
人気のないどこかの倉庫。その中で麗音は青仮面と対峙していた。
護衛しているつもりだったが、こうも簡単に切り離されては面目がない。
あとで白亜に叱られるのは確定として、この場をどう切り抜けるかが問題だ。
快斗を守らなければ終わる。白亜には怒られるし、怜音にはお小遣いを減らされるだろう。
「それだけは絶対に阻止するッスよ」
力強く頷き、麗音は胸元に手を添えた。
「お願い、抵抗しないで。そうしたら殺さないであげるから。邪魔を、しないで……」
儚げな話し方をする青仮面。声の高低も抑揚も不自然で、まるで調教前の人口音声のようだ。
声バレを防ぐためだろうが、今どき声なんてバレたって身元までは特定されまい。怜音がいなければの話だが。
「あーしと話す時にそれをやるってことは、怜音さんのこと警戒してるッスね?」
「………」
「その無言は肯定して受けとるッスよ」
剣を向けたまま動かない青仮面。麗音は警戒しつつも、快斗の身を案じて微かに焦る。
「やっべどすればいいッスかねこれ」
微かではないようだ。
「君は武器がない……勝てないからやめて」
「武器がないって?はは。傍から見ればそうッスよね、でも、あーしは違うッスよ!!」
麗音が指に力を込め、胸元の1箇所を押し込んだ。
すると人間の肉体にはありえないほどにその箇所が体にめり込んだ。まるでボタンを押したかのように、カチッと音を立てて。
「あーしを人間として考えないほうがいいッスよ」
胸元が四角く縁取られ、その部分が開くと、中から1本の長い日本刀が姿を現した。
それを引き抜き、麗音は両手でそれを掴んで構えた。
「あーしは最強サイボーグ、保和苑麗音ッスからね!!」
倉庫に響き渡る大声で麗音が言い放った。壊れた倉庫の天井から差し込む夕日の光が傾いて、遂に光が差し込まなくなった時、麗音は冷や汗をかき始めた。
「今の名前は聞かなかったことにするッスよ!!決してミスって情報渡しちゃったとかじゃないっスけど!!ないっスけど!!」
自称最強サイボーグは、頭が壊滅的に悪かった。
~~~~~~~~~~~~~~~
「さてと、ここに置いておくか」
乱雑に縄でぐるぐる巻きにされた快斗を、男は地面に落っことした。
骨盤に確実にダメージを叩き込まれ、快斗は呻き声を漏らした。
そこは小さなビルの一室で、なんらかの事務所のような場所だった。辺りを見回すと、顕微鏡やら薬品やら、沢山の実験器具が置いてあった。
何かの研究施設なのだろうか。こんな規模じゃ、ろくなもの見つかりそうにないが。
「連れてきたのか」
しゃがれた声が聞こえ、その言葉に快斗を連れてきた男が「おう」と応答する。
「傷つけずに無理くりな」
「そうか……私の願いは叶えてくれる手筈だったよな」
「俺の願いもだ。お前だけのもんじゃねぇぞ」
「ふん……Sが戻ってくるまでは、手を出すなよ」
「はいよ、研究員」
白衣を着た、しゃがれ声の背の高い男は、奥の部屋に入っていった。
「お前も大変だよな。こんなに狙われてよ」
「そうだが……目的はなんだ?」
「詮索するなよ。ま、とはいえ俺の素性も能力も、お前を匿ってる奴らにはバレてるんだがなァ」
ため息をつく男はどこか楽しげだ。快斗の命が、彼らの願いを叶える神器のように写っているのだろう。
「坊主、名前はなんて言うんだ?」
「言う必要がないだろ」
「そりゃそうだな。Sに訊けば分かるか……俺の名前は
「呼ぶことは、もうないだろうがな」
「ハハッ!!そうだなァ」
敵の自己紹介なるものは聞いてもこの場ではあまり意味をなさない。特に、この男に関しては既に怜音に探られているらしく、この場での情報の引き出しは意味をなさない。
楼久は窓を開け、タバコを加えると、肺に煙を詰め込んで口から吐き出した。
「ワンチャン、お前の命で俺ァタバコを辞められっかもしれねぇなァ」
「良かったな。肺は大事にしろ」
「今更、俺の肺はもう炭も同然だぜ」
悠々と煙を纏う楼久は快斗に笑顔を見せた。獰猛な肉食獣のような笑顔。少しガラの悪い普通人に見えるのに、やはり節々に人殺しを経験した者の、ズレている部分が露呈している。
上手く隠せばそれも無くなるのだろうが、楼久はそういうタイプでないように見えた。
「にしても、Sの野郎、最後まで名前も顔を見せねぇ気かぁ?願いを叶えたあとにでも、教えてもらうか」
そんな独り言と煙が、窓の外へと漂っていた。
~~~~~~~~~~~~~~
「はぁ!?天野が攫われた!?」
「うん、しかも『青の会』の半分の戦力が集まってる。これは面倒だよ」
怜音と白亜がパソコンの画面を食らいつくように見ていた。
その画面に映し出されているのは、自称最強サイボーグこと麗音の瞳に内蔵されたカメラに映し出される映像だ。
リアルタイムに中継される映像は、快斗を攫ったグループと、今麗音が誰と戦っているのかを教えてくれた。
「だがまだ天野君は殺されていないはずだ。『青の会』のリーダーはこの青仮面。彼がこの場で麗音と戦っているのなら、まだ殺すという司令は下されていない……そう信じるしかない。」
「やってくれたわね『青の会』!!それで場所は!?」
「麗音のは分かるんだが、天野君は分からない!!GPSでももたせとけば良かったな、失態だ!!」
もう一台別のパソコンには、麗音の位置が表示されている。
彼女に内蔵された機能は多岐に渡り、今のところ麗音の情報は怜音に分からないものは存在しない。
だから麗音が、怜音にお小遣いを減らされることと、白亜に怒られることを何よりも心配しているのも分かってる。
「あんの馬鹿!!」
「とにかく、天野君の場所を……うん?」
慌てる白亜の横で、画面を見ていた怜音が首を傾げた。
画面に映し出された情報を読み解いて、怜音は唖然とするのと同時にニヤリと笑った。
「白亜、分かったかもしれない」
「はぁ?何が?」
「天野君の場所さ」
キーボードを打つ速度が早まる。どんどん加速していくその姿は、頭の中で考えを構築していくのをそのまま体現させているようだった。
地図と麗音がいる場所を把握し、情報と併せて考える。
「見つけた」
「はーマジ?」
「じゃあ、今暇そうな彼らに任せよっか」
怜音はとても楽しそうだった。
「面白。天野君」
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