第10話 軽音部室

快斗が破壊した学校の壁は、次の日の朝にはすっかり修復されていた。それを見あげて快斗は帰り際、近くにいた鏖間にそのことを問うてみた。


すると彼は朗らかに笑って、


「これは私の能力ですよ。『編集』。同じ質量の物体があれば好きな物質、形に編集出来るんですよ」


「じゃあ、この小石を金にも出来るのか?」


「ダイヤモンドにだって出来ますよ。お嬢様に禁止されているので、金利目的では致しませんが」


部活の終わり際、最終下校時間近くまで部室にいた3人は鏖間の運転する車に乗せてもらえることになった。


「快斗君の家は、最寄り駅の隣の駅の方でしたね」


「そこで降ろしてくれればいいんだが……」


「いえいえ、お嬢様の珍しい男友達ですので、ご自宅までお送りしますよ」


その鏖間の言葉に、後ろに座っている白亜が反応する。


「私はそいつを友達だと思ってない!!」


「お嬢様の言うことは大抵逆ですので、お気になさらず」


「私が気にするっての!!」


勢いよく反論する白亜をはいはいと流す鏖間。その関係から、普段からこうして流しているのかと感心する。


参考にしようと、快斗は思った。


「そういえば、天野、明日は放課後になったら軽音部の部室に行ってちょうだい」


「理由は?」


「あんたを見張るのと、護衛するための私の仲間がいるから、そいつと顔見知りになっておいて」


快斗の立場は、昼休みに白亜に散々教え込まれた。


能力がないことは信じたが、その7京人の殺害者数はどうにも見過ごせず、他の殺害者に殺されてはいけないらしい。


何がそこまで危機感を煽っているのか尋ねると、その理由は白亜達と敵対しているグループのせいらしい。


そのグループは、白亜達と同じように複数人の殺害者で協力関係になって、1万人殺害を目標に無差別に殺し回っているらしい。そのグループ名は『青の会』。由来は分からないらしい。


それを阻止するために、白亜達のグループが存在している。


また、そのグループの願いにも問題があるようで、団員のほとんどが社会に不満を抱く人間であるらしく、全員に共通している願いは社会の崩壊。


阻止したがる気持ちもわかるが、そのような正義感が白亜達に、もっと言えば殺害者にあるのが意外だった。


また、それとは別にもうひとつ、単騎で強い人物もいるらしいが、今の所動きは無いので無視している。


「あんたの護衛は軽音部室でギター弾いて歌ってるでしょうから、連絡先でも交換しておいてね」


「分かったよ」


現状、狙われる立場にあることは間違いなく、対抗する手段を持ち合わせていない快斗は白亜達に従うのが得策だと考えた。


だがこうなると白亜達が快斗を殺せば解決なのではと思うのだが、そうしない理由も何となく快斗は分かっている。


怖いのだ。白亜達は快斗が未だ怖いのだ。


あの力がないということは信じるが、もしもの事があるかもしれない。死に際に発動する切り札かもしれない。本人が自覚しないだけかもしれない。


だからこそ、今は手を出せず、かと言って放ってもおけない。面倒な立ち位置になったもんだと、快斗はため息をついた。


~~~~~~~~~~~~~~~


「はい、今日はここまで。また明日」


茨城先生の言葉を最後に騒ぎ出す生徒達。快斗は隣の席の瞬に軽音部室の場所を聞いた。


「瞬、軽音部室がどこにあるか分かるか?」


「あぁ、案内してあげるよ。うちの学校は少し特殊な作りをしているからね」


2人で教室を出ていく。男女構わず羨望の眼差しを背後に感じたが、快斗は気にせずに教室を出た。


「なんだ快斗。部活に行くのか?」


廊下で茨城先生に声をかけられた。快斗に話しかけているのに、視線は瞬に向いているのが怖い。


「軽音部室に用があるので、そちらに」


「なんだと!?私が顧問の部活は!?軽音部に入っちゃうのか!?」


「入るわけじゃないですよ!!そんな擦り寄らないでください!!」


快斗と同じくらいの背丈の茨城先生は快斗に寄りかかるように道を塞ぐ。そんなに廃部が嫌ならば、顧問の振る舞いも正してみるということを考えないのだろうか。


それをどうにか振り解き、快斗は瞬と軽音部の部室へと向かった。


軽音部室は音楽室の隣にある。音楽室までは、職員室の目の前にある階段を上り、食堂に沿って続く通路を通る。


通路からは食堂が一望出来るようになっており、ガラス張りの壁から覗くと賑やかに放課後の自由な時間を謳歌している生徒で溢れていた。


「ここだよ、軽音部室」


指し示された教室は、食堂と同じようにガラスの壁で仕切られており、中が見えるようになっていた。


その中に1人、ギターを弾いて歌っている女子生徒がいる。


「僕は部活があるから、このくらいで」


「おう、ありがとうな」


礼を言って瞬と別れ、快斗は軽音部室の中に入る。


扉を開けた瞬間、放たれる音圧に少し気圧された。外でも音楽は聞こえたが、中と外では迫力が違う。


が、扉を開けられたのには気が付かれたようで、ギターを弾いていた女子生徒は快斗に視線を向けた。


目が合うと彼女はパァと元気に笑って、


「はじめましてっスね!!入部希望っスか?それとも天野快斗さんっスか?」


ギターを置いて駆け寄ってきた女子生徒。快斗は後者のほうに頷くと、女子生徒は敬礼のポーズをして、


「あーしは保和苑麗音ほわえんりおんっス!!快斗さんの護衛兼見張り役っスね!!よろしくお願いします!!」


そう言って、黒髪ポニーテールを揺らしながら笑った。

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