第6話 洗い出される罪

世界のルールは想像以上に酷いものだった。


人を殺せば殺すほど強くなる世界。


20人を超えると異能力を授かり、1万人を殺すと願いが叶うという。


その話がどこまで本当なのかは知らないが、それは人を殺して5人を超えるとルールを知るらしい。


「あんたは何人殺したのよ」


「この世界ではゼロだよ」


異世界にいた時に殺害したことは数え切れないほどある快斗だが、この世界では犯したことはナい。


「じゃあ、あの力はなんなのよ」


「……あれは異世界にいた時の力だ」


「じゃあ、あんたはこの世界の神様に依存していない力を持ってるってこと?」


「そうだが……使えないはずなんだ」


快斗は俯いた。さっきの青仮面を殴り飛ばした時の力は、快斗も予想外のものだった。


どうして発揮できたのか分からなかったが、自由に発現させることは出来なかった。それは今もそうだ。


「あんたはこの世界に帰還した人間だから適応外ってことかしら」


「あの力が使えた理由は俺も分からないが、とにかく今は使えないんだ」


「ふーん……それでも信用は出来ないわね。だから、あなたを鑑定してもらうことにしたわ」


「鑑定?」


「正しくは、侵略だけどね」


そう言って白亜が指を鳴らす。鏖間は困ったように笑いながら、後ろの扉を開けると、椅子に座ってゲーム機に目が釘付けな女性が座っていた。


白衣を着たボサボサ髪の姿は、普段基本的に寝転がって髪を傷ませていることが分かる。


そんな彼女は、扉を開けられ、姿が晒されようと、ゲーム機から目を離すことはなかった。


「ちょっと保和苑ほわえん!!ゲームやめてやってちょうだい!!」


「んぅ?はいはい、仕方がないね白亜ちゃん」


ちょうど敵を倒し終えたようで、保和苑と呼ばれた女性はゲーム機をスリープさせ、ゆらゆらと揺れる足取りで快斗の目の前に立った。


背の高い鏖間や白亜に並ぶと比較的身長が低いその女性は、クマだらけの笑顔を快斗に向けて、


「こんにちは、転校生君。私は保和苑怜音ほわえんれおん。白亜ちゃんのお仲間だよ」


と、今にも倒れそうなほどに体を揺らしながらそう言った。


「………大丈夫か?体調」


「うん、僕は二徹までは余裕だからね」


「今は?」


「三徹」


「じゃあ駄目じゃねぇか」


瞼が重たいのか、口を開けたままあほ面こいている怜音は指で瞼を持ち上げて快斗を覗き込んだ。


全身見たが、特に顔を見つめていた。


「何してるんだ?」


「保和苑はね、人の顔を見ればその人の記憶と殺した人数、今いる住所とか趣味とか、そういうことを見ることが出来るの。能力の名前は『侵略』。頭の中を侵すって意味なんだと思う」


「まぁ情報が一気に頭の中に入ってくるから、普段から使ってる訳じゃないけれどね」


何度も目を擦る怜音。快斗の顔をずっと除き続ける怜音は目を閉じては開けてを繰り返し、時折笑っていた。


「おかしいな。寝てないからなのか、君の記憶が一日分しかないよ」


「それは俺がこの世界に来た時からだからか」


「なるほど、異世界からの帰還者なんてネタかと思ったけど、これを見るとそう思うしかないだろうね………それにしてもおかしいな」


怜音は引きつった笑みを浮かべたまま後ずさる。


白亜の背後に隠れるようにして距離をとった怜音に、皆が怪訝な目を向けた時、怜音は口を開いた。


「信じたくないね、僕はこんな人間見た事ない」


「何よ、どうしたって言うのよ」


白亜の問に大きなため息をつき、怜音は驚くべき言葉を口にした。


「天野君、君は一体何をしたんだい。7京人も殺すなんてさ」


その覚えのない言われように、快斗も他のふたりも硬直した。

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