第5話 虫唾が走る
その後、快斗は家に帰ることが出来なかった。
「酷い扱いをしやがる。俺の人権は?」
「人間だったら尊重してたわよ。あんたはそう見えない」
「そうかよ」
刃を向けられたまま、快斗は背後からの声に呼応する。
今快斗と白亜は、学校の裏口に立って迎えを待っている。
迎えというのは、白亜を迎えに来てくれる人のことなのだが、何故か快斗も連れていくと白亜が言い始めた。
「あの力の招待を明かすまでは、あなたを野ざらしには出来ない」
「そんなものどうだっていいだろ。さっさと俺を殺せば済む話だ。」
「無理よ」
「なんで」
「だって、あんた自分でそう言っておきながら、私のために死ぬつもりないじゃない」
白亜のおっしゃる通りで、快斗は死ぬ気なんてサラサラない。覚悟だけはあるが。
だから白亜の前で両手を上げて、振り返ることなく刃を向けられ続けられているのだ。
うなじに突きつけられた刃のせいで、首周りが鳥肌を引き起こす。刃を向けられると、妙に危機感が刺激される。
「あ、来た」
ふと、白亜が左奥の道を見て言うと、そこからひとつの黒い車がライトもつけずにやってきた。
よく目を凝らさなければ見えないくらい暗闇に同化した車は、白亜と快斗の前に止まると、扉が開いて中から長身の男がスーツ姿で出てきた。
そしてその暗闇に紛れて消えそうな長身の男は、快斗と白亜を交互に見つめて、
「全く、また何か拾ったんですか?お嬢様」
なんて丁寧に言って、白亜が乗る席の扉を開けた。
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快斗の身柄は拘束されたままだった。
重たい鎖で柱に繋げられ、しかし抵抗もしない快斗を白亜と長身の男が見つめている。
「それで?俺は何されるんだ」
「何もしないわ。何もされたくないもの」
「……俺はあの力を、今は使えない」
「信じられないわね。あんな馬鹿みたいな怪力発せられたら、私だってもたないわ」
警戒をとかない白亜に、長身の男は困った表情を浮かべた。
「お嬢様のお話を疑う訳では無いのですが、本当にこの男子が、青仮面を怯ませたのですか?」
「本当よ。この目で見たもの。あの仮面のやつはちゃんと強い敵だったわ。私の攻撃だって全然当たらないし。ムカつく」
「そう頭に血を上らせては、足が貧血になりますよ」
「そんな作りじゃねぇだろ体ってのは。」
ふざけた物言いの男を、白亜は鬱陶しそうに睨みつける。長身の男はふざけすぎたとすぐに離れ、クスクスと笑っていた。
「
「いえ、なんでもございませんよ、お嬢様」
いいとこの貴族みたいな扱いを受けるお嬢様白亜は、ひょうきんな態度の鏖間という男にご立腹だが、すぐに快斗に視線を戻した。
「あんたのせいで青仮面を取り逃した……て言っても、あのまま戦ってたから私も死んでたかもしれないし、その点には感謝してあげるわ」
「感謝まで図々しい奴だな」
動けない快斗は見つめてくる白亜の瞳を睨み返したが、白亜は目を逸らしてふんと鼻を鳴らした。
目をそらすのは反則だろう。
「──なぁ、お前らのその力は何が由来だ?」
「──由来?」
快斗は天を仰ぎ、同居人が心配しているかもしれないという不安を抱きながら、そんな問いを口にした。
まるで慣れているように質問してくる快斗に、白亜は首を傾げた。
「あんたの出で立ちが理解できない以上、どこまで知っているのか知らないけど」
「そうだな……何も知らないと仮定して話して欲しい。……何かわかるかもしれない」
「そう、どうせ無理でしょうけど」
一言多い白亜にイラつきながらも、快斗は静かな物置の中で、白亜の説明が始まった。
「いつからこのルールが世界に適用されていたのか知らないけれど、少なくとも私が生まれた時からあったものよ。」
白亜の言うこのルールというものは、虫唾が走るほどに気色が悪いものであった。
「ほとんどの人間は知らないけれど、今この世界は──人を20人殺すと、異能力が手に入るようになってるの」
「……はぁ?」
快斗はそのルールがあることよりも、
「お前ら、そんな馬鹿げたルールに従ってるのか?」
と、驚愕の眼差しを白亜達に向けた。
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