第2話 書道&イラスト部

突然の転校生。しかも校則違反のアクセサリーを派手につけているらしい。


そんな彼の噂はすぐに広まって、昼頃には周りに人だかりが出来ていた。


どこから来たのやら、部活は決めたのかやら、何が好きで何が嫌いで何が得意なのか不得意なのか、そんな在り来りな質問攻めにあっている快斗を、白亜は教室から連れ出した。


体育館の裏の自転車置き場に連れていき、それから勢いよく壁に押し付けた。


それから爆発するのではと思うほどに強く、快斗の顔の真横の壁に拳を叩きつけて、


「……なんであんたが生きてるのよ」


そう、鋭い眼光で問いかけた。


「生きてちゃ悪いかよ、黒峰白亜」


「フルで呼ぶな。私は、あんたが死んだって聞いたけど?」


「……ここではそういうことになってるのか。」


「……えぇ、そうね」


今日初めて会ったように見える2人だが、実は面識がある。


彼らは同じ中学校に通っていた。だが、ある事が理由で同じクラスだった2人は二度と会えなくなった。


修学旅行で、ある生徒がバスの運転手を刺し、その主導権を奪ってバスごと崖から転落。バスに乗っていた運転手、バスガイド、教師、そしてクラスメイト達は死亡した───ように思われた。


実際は他のクラスからの通報により救助隊が駆けつけ、ほとんどの生徒が奇跡的に回復した。運転手もバスガイドも教師もだ。


だが、それでも死者はいた。3人の生徒が亡くなった。というより、死体が見当たらなかったらしい。


バスの爆発によって消し飛んだとされていたが、それ以上に不可解なことがあった。


生き残った者全員が、起きた瞬間、異世界から帰ったと喜びの声を上げたのだ。


数人のおふざけではなく、本当に全員そう叫んだのだ。証言も示し合わせたかのように一致し、このことは日本のオカルト界隈を騒がせた。


そして、最もその界隈を盛り上げさせたのは、ある1つの話だ。


1人の生徒と、そちら側に寝返った2人の生徒は、あっちで生きている、という話だ。


そして、その話に出てきた生徒は、死体の確認が済んでいない生徒達だった。


その内の一人が、


「バスを落とした、天野快斗」


「……そうだな」


今、白亜の目の前にいる男こそ、その事件の原因であり、異世界に取り残されたと声を揃えて言われた人殺しである。


だが、こうして目の前にいるということは、何かが起こったに違いない。


「なんでここに居るのよ」


白亜の疑問は止まらない。あの修学旅行も諸事情により出られなかった白亜は、事件の真相を知らない。


「色々あったんだ……信じてくれないだろうが、俺は転生して……」


「聞いたわ。生き残った他の生徒達にね」


「……ちょっと待て。生き残ったやつが他にいるのか?」


「あんたとさかき、それとめぐりちゃんは死んだってことになってたわ。それ以外は生き残ってるわよ」


「……なんだと?」


快斗は一瞬とても辛そうな表情をしたが、すぐに仏頂面に戻って、話を進めた。


「まぁ、いい。それより、俺がここにいる理由だったな」


白亜の質問は、何故生きているのかということだけを問うているのではない。


何故この学校に転校してきたのかということだ。


その答えを紡ぐ快斗の口にじっと白亜は集中して、


「俺にも分からない。気がついたら、ここの生徒になっていた。それが理由だ」


「超常現象は、想定外だったわ……」


理論的な話が出来そうにない切り返しに、白亜は頭を抱えたのだった。


~~~~~~~~~~~~~~~


「ねぇねぇ天野君!!うちのバレー部に来ない!?」


「行かない」


「天野!!」


「おうなんだ」


「うちのサッカー部に─」


「行かない」


「天野氏!!」


「何事」


「うちのアニメ漫画同好会に─」


「興味はあるが、俺は同担拒否なんだ。申し訳ない」


「オタクに優しい転校生……」


快斗はこんなにこの学校が部活動に活気があると思っていなかったので、放課後になった瞬間に起きたラッシュに面食らった。


ただ大半は興味が無いのと、そんな時間は快斗にはない。


今は、しなければならないことがある。


そんなふうに部活を断りまくっている快斗を遠目に、白亜はそそくさと教室を後にする。


「白亜ちゃん、帰るの?」


机から見上げるようにして目を向けてきた可愛らしい瑞希の頭を撫でて、「やることあるから」と言う。


瑞希はにっこりと笑って世界一可愛い顔で「頑張ってね」と言ってくれた。やる気が漲った白亜は拳を握りしめ、教室から飛び出して行った。


~~~~~~~~~~~~~~


「はぁ……多すぎたな、良い奴が」


たくさんの部活の勧誘を振り払い、部活でなくともその特異な見た目に興味を持って話しかけてくる奴らの相手をしていたら、こんな時間になってしまった。


とはいえ悪意を持って接してくるやつは少なかった。それ故、話が長引いて遅くなってしまった訳だが。


「さて、靴箱は……ん?」


もうほとんどの生徒が帰路につき、暗くなった学校内で、靴箱のある昇降口から、ぼんやりとした光を放つ部屋が見えた。


「あれは……中等部か」


快斗が今通う学校は中高一貫で、文化部の中には部室が中等部にあるものもある。あの光はそれだろう。


「……もしかして、あれじゃないだろうな?」


快斗はそうぼやきながらも、興味本位でその部屋に行ってみた。


中等部の靴箱の更に奥、演劇部の部室がそこにあり、通路を挟んで向かい側に、あかりの灯る小さな部屋がある。


「失礼します」


何の気なしに快斗は扉を開けた。すると何かが扉に当たる感覚があって、


「びゃっ!?」


と、誰かの悲鳴とともにグシャッと大きく倒れる音がした。やってしまったらしいと思いながらも、快斗はその部屋に足を踏み入れた。


そこは畳の部屋だった。その奥側に、不自然な机と、たくさんの種類の色鉛筆があった。扉から入って右側の壁にはイラストが、左側の壁には習字が飾ってあった。


なるほど、そういう部活かと思っていたが、下から聞こえたうめき声に我に返る。


「すみません、扉を開けてしまって……」


「い、いえ、大丈夫ですよ」


床に置いた半紙に墨が染み込んだ筆を片手に持った少女が倒れ込んでいた。


こちらを見上げるタレ目に、弱い灯りに照らされた快斗が映っている。


「えぇっと、あなたは、転校生の、天野快斗さんですよね?」


「知ってるんですか」


「はい。同じクラスですから」


「……気づかなかった。すまん」


「い、いえ!!影は薄いほうなので」


その黒髪短髪の少女は謝罪する快斗に優しく笑いかけ、


「ようこそ書道&イラスト部へ。体験はまた明日になりますが、一応名前を。部長の、上水戸瑞希です。よろしくお願いします」


礼儀正しくお辞儀をして、可愛らしい少女、瑞希は微笑んだ。

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