薄い服を着てみた女の子の話。

@amy2222

第1話 「かわいいと言わせたい」


今日こそはドキドキさせてみたい。まるで少女漫画のヒロインのようなことを考え、ついに私は手に入れた。


わずかな布で作られたこの服は、肌に密着し、私の曲線を際立たせている。鏡の前で立ち、自分自身の姿を確認する。


繊細なレースがデコルテを飾り、背中は大胆に開いている。それは彼を惹きつけるための完璧な選択だ。たぶん。


部屋の中で、光が柔らかく降り注ぐ。窓から漏れる月の光が、シルクのカーテンを透かして幻想的な雰囲気を作り出している。


息を深く吸い、ゆっくりとドアの方へ歩き始める。足元のヒールが床に響く音が部屋に響く。ドアノブに手をかけ、少し緊張しながらもノックする。中からは彼の落ち着いた声が聞こえてくる。「入っていいよ。」


ドアを開け、ゆっくりと中に入る。彼は書類に目を通しているが、私が入るとその視線が私に向けられる。彼の目が私の姿を上から下までじっくりと見ていく。その視線だけで、私の体が熱くなるのを感じる。


部屋を横切り、彼の目の前で止まる。少し頭を傾げながら、彼の目をじっと見つめ返す。彼の手が私の手に伸び、静かに引き寄せる。私たちの間の空気が一瞬で変わる。彼の瞳に映る私は、ただ彼を誘う存在。彼の唇が私の耳元で囁く。


「タグが付いてるよ」


チッ、駄目かと心の中で舌打ちをする。これでは雰囲気はぶち壊しだろう。今日もまた私の負けかと思った。その時だった。彼がそのまま押し倒す。


衝撃に驚いている私をよそにテーブルの上にある、小物入れからハサミを取る。刺されるかと思って強張らせるが、彼は押し倒したままタグを切る。


ハサミに怯えた私を見て、楽しいのか、ニコニコしている。


「で、そんな格好をして、どういうつもり?」


彼は薄っすらと冷たい笑みを浮かべながら、私を見る。少し怖いけど、でも見てくれている。その感覚が嬉しい。


「かまってくれないから、つい…んんっ!」


私が何か言おうと口を開けば、彼は即座にその機会を奪い、自らの舌を私の口内に滑り込ませる。


「ほらほら、どうしたの。喋ってよ。続きを聞かせて?」


私の顔を撫でるが、その触れ方には優しさよりも所有するかのような支配的な意味合いが込められているようだった。

両腕が顔の隣にあって、身動きが取れない。


「いま僕は仕事をしていたのに、邪魔するのは良くないと思うんだよねぇ。そう思わない?」


彼の動きには柔らかさがなく、断固として私の反応を制御するかのようだ。彼のキスは、私の言葉を封じ、私の意志を曖昧にする。


「ご、ごめんな…んんっ」


私が何かを言おうとするたびに、彼はさらに深く舌を入れてくる。


彼のキスからは逃れられない圧迫感があり、冷たい支配を感じさせる。


「謝るくらいならやらないほうがいいと僕は思うんだ」


彼の表情には情熱や愛情の色は見えず、ただ自己の欲求を満たすために私を利用しているかのような冷徹さがある。本当に怒っているのかもしれない。


私が不安で泣きそうになっていると、彼は優しく頭を撫でる。「嘘だよ」と彼は言う。


「ごめんね。本当はもう仕事は終わってたから大丈夫だよ。」


と、彼の手が一瞬のうちに私の背中に回り込み力強く私を抱き上げる。


彼の腕の中で、私は抵抗することなく、彼の意志に身を委ねる。


彼の足取りは確かで、部屋の中を静かに歩み、ベッドへと向かう。彼の表情は依然として冷静で、計算された動きが続いている。


ベッドの端まで来ると、彼は私をそっと下ろす。私の体が柔らかいマットレスに触れると、その温もりが対照的に感じられる。


彼は私の上に覆いかぶさり、その重みが全てを現実に引き戻す。彼の手は私の腕を掴み、それを頭上に向けてゆっくりと動かす。


私の体がベッドに完全に委ねられると、彼の目が再び私の目を捉える。


彼の冷たい視線が一瞬和らぎ、わずかな笑みを浮かべながら彼は言う。


「最高にかわいいよ。」


その言葉が意外なほど優しく、私の心に深く響く。彼の声にはいつもの冷静さが影を潜め、優しかった。


私はその言葉に胸が高鳴り、同時に頬が熱くなるのを感じる。彼にそう言われたことが嬉しくて、どう反応していいかわからない。


顔を彼から少し背け、恥ずかしさでうつむく。しかし、彼の手が優しく私の顔を持ち上げる。彼の指が私の頬を撫で、目を見て囁く。「本当に、かわいい。」


その優しい言葉と温かな触れ方に、私はさらに恥ずかしさを感じつつも、深い喜びを感じる。


彼の通常の冷たい態度が嘘のように、今はただ私を褒め称える彼がいる。そのギャップに心が揺れ動き、彼の前で自然と笑顔がこぼれる。


「ごめんなさい。」と小さな声で返す私に、彼はさらに笑顔を深め、静かに私の髪を撫で続ける。その優しい瞬間は、私たちの間に新たな絆を築き上げていくようで、私は彼の言葉を胸に刻み込む。


「いいよ。でも、他の人にこんなの見せたら…わかるよね?」


この独占欲が強い人なのかもしれない。けど、その束縛が心地よくて、ついハマってしまう。


その夜、私たちは言葉を交わすことなく、ただ互いの温もりを感じ合う。彼の息が徐々に深くなり、穏やかな寝息が部屋に響く。


彼の手が私の手をしっかりと握ったままで、その温かさが私に安定を与える。


私は彼の胸に頭を預け、彼の心臓の鼓動を感じながら、目を閉じる。そのリズムが私をゆっくりと眠りへと誘う。


次はどんな服にしようかな、と。そんなことを思いながら心地よい疲労感と共に、私たちは深い眠りに落ちていく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

薄い服を着てみた女の子の話。 @amy2222

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ