第五十三話 アレグトン その二
僕の能力は、決して他人に知られてはいけない!と父から強く言われています。
何故なら、僕の能力は他人の感情を読み取る事ができるからです。
その能力は僕の意思とは関係なく、常に発動されていています。
他人と向き合った際に、相手が今どのような感情を持っているのかが常にわかります。
喜び、悲しみ、怒り、嫌悪、信頼、様々な感情が手に取るように分かります。
幼い頃は、相手の感情が分かる事でかなり苦労しました…。
僕の家には数多くのお客が訪れて来ています。
その多くの人は笑顔で訪れて来るけれど、僕にはその笑顔の裏に隠された感情が分かってしまうので、人と会うのが恐ろしく思っていました。
父にその事を打ち明けると、父は驚きつつも、僕に優しく言ってくれました。
「アレグトン、お前の能力はとても素晴らしい。
しかし、決して他人にその能力の事は話してはならない。
お母さんや妹にもだ。
理由としては、その能力が人に恐れられる能力だからだ。
人の心と言うのは、本来なら誰にでも分かるものではない。
分からないからこそ、人と人は付き合っていけるのだ。
アレグトンには理解出来るだろう?」
「はい…皆嘘つきばかりです…」
「その通り、私も自分の心に嘘をついて、他人と付き合って行っている。
例え嫌いな相手とでも、時には手を取り合って協力して行かなくてはいけない。
それが出来るのも、相手の心が分からないからだ。
心が分かると知られてしまえば、誰もアレグトンに近づいては来なくなってしまう。
私はアレグトンに幸せになって貰いたいと心から願っている。
その為には、その能力の事は決して誰にも話してはならない!いいな!」
「はい、分かりました」
「それと今日からアレグトンは、私と共に来客の相手をして貰うぞ」
「それは…父さんに相手の感情を教えると言う事ですか?」
「違う、そんな事は私は望んではいない。
アレグトンが今後生活していくに当たって、相手がどんな感情を持っていたとしても、平然とした態度で対応していく為の訓練だ。
アレグトンは来客が来る度に逃げ出していたな」
「はい…」
「単なる人見知りなのかと考えていたが、恐ろしかったのだな。
そんな事では、今後一切他人とは関わり合いになれない生活を送る事になってしまうぞ。
私はそんなアレグトンを見たくはない。
だから、アレグトンが普通に生活して行けるようになる為の訓練だ。
だが思い悩む事は無いし、相手次第では私にその事を知らせてくれていい」
「相手次第?」
「例えば、私達家族に憎悪や嫌悪や殺意と言った、悪感情を持っている者がいた場合だ。
これからは思い悩まずに、何時でも私に相談しなさい」
「分かりました、その時は父さんに相談します」
父に相談できるようになってからは徐々に人が怖く無くなり、学園で多くの人と普通に接する事が出来るようになっていました。
しかし、学園では僕に悪感情を持つ人たちばかりで、とてもとても辛かったです…。
だけど、魔法さえ使えれば、それも改善されるのでは無いかと思って大魔法使いイドリーに相談したのですが…。
僕が魔法を使えない理由は、僕の能力だと教えられました。
「だが、嘆く事は無いのじゃよ。この学園を出て行けば、魔法を使う機会など滅多にないのじゃよ。
儂の様に宮廷魔導士を目指しておったなら別じゃが、お主の目的は違うのであろう?」
「はい、僕はこの学園で多くの事を学び、父の跡を継ぐのが目的です」
大魔法使いイドリーの言う通り、僕は魔法が使えなくとも何も問題はありません。
「それと、この事は誰にも話す出ないぞ!話せばお主の能力の事も話さないといけなくなからの。
儂もこの事を言いふらしたりはしておらぬのじゃよ。
強力な能力を持った者に、恨まれたくは無いのじゃからの」
「はい、分かりました。本日は相談に乗って頂き、ありがとうございました」
僕は大魔法使いイドリーに感謝を伝え、魔法の事は諦めて勉学に励む事にしました。
魔法の授業をすべて取りやめ、他の授業に割り当てました。
他の人からは色々言われましたし、いじめはなくなりませんでしたが、気持はかなり楽になりました。
魔法を使えない事で悩んでいた事が嘘の様です。
僕に必要なのは勉強と知識、それから剣術です。
僕は戦う事が苦手で、剣術も上手ではありません。
戦う事が上手くなれば、いじめを跳ね返す事が出来るようになるかもしれません。
僕は今まで受けていなかった剣術の授業を選び、一から鍛えて貰う事にしました。
「アレグトンは剣を振る前に体力をつける必要がある。毎日走り込みを欠かさずやる事だ!」
「はい、分かりました!」
僕には、剣を振り続けられるだけの体力がありませんでした…。
その事で、また他の人から剣でも落ちこぼれだと言われましたが、事実なので何も言えません。
僕は体力をつけるために、毎日走り続ける事になりました…。
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