第五十一話 ミュリエルの仕事 その三
「今日の分の給与です」
「ありがとうございます」
お辞儀をするだけで、大銅貨一枚を貰う事が出来た。
給仕をしていた人達はもっと貰っていたので、あたいも早く給仕の仕事をやらせてもらえるようになりたいと思う。
「レフィー、これ、あたいが稼いだお金…」
「それはミュールのお金だ。俺に渡す必要はない」
「でも…」
翌日、授業を受ける前にレフィーにお金を渡そうとしたのだけれど、受け取ってはもらえなかった…。
それなら、あたいの授業料は自分で支払うと言ったのだけれど、それも払わせてはくれなかった。
「ミュールは、自分で稼いだお金は自由に使っていいからな。新しい服を買ってもいいし、美味しい食事を食べに行ってもいい。
シャリエットと出かけてくると良いと思うぞ」
「レフィーは?」
「俺は仕事が忙しいな。新しい仕事も見つかったし、それが結構いい金になるんだ」
「そう…無理しないで」
「俺は働くのが好きだからな、無理はしてないぞ」
レイフィースは笑顔で私の頭を撫でてくれた。
それは嬉しかったのだけれど、レイフィースが無理をしているのはシャドルースの表情を見れば明らかだ。
「シャド、レフィーが無理をし過ぎないように見張ってて」
「うん、分かってるよ!」
シャドルースでは頼りないけれど、あたいはレイフィースの傍にいられないから、今はシャドルースを頼るしかない。
レイフィースにいつかはお金を渡せるだろうから、その時まであたいも頑張って稼いでおかないといけない。
あたいもレイフィースに負けないくらい、仕事を頑張ろうと思う。
仕事を始めてから一週間が経ち、あたいとシャリエットはやっと給仕の仕事をやらせてもらえるようになった。
と言っても、ワゴンに食事を乗せて運び、食事を貴族様の前に置くだけの作業で、注文を取ったりするのは他の人がやってくれる。
だからと言って、気をまったく使わない事はなく、食事の乗った皿を音を立てないように静かに置かないといけないし、万が一にもこぼしたり貴族様の服を汚したりしてしまっては大事になるので注意が必要。
始めて運んだ時には手が震えて皿を落としそうになってしまったけれど、他の人が助けてくれて落とさずに済んでよかった。
「魔法も使えない落ちこぼれは、俺達から離れた所に行けよ!俺たちまで落ちこぼれだと思われるだろ!」
「ごめんなさい…」
食堂に突如として罵声が響きわたる。
これはあたいが食堂の入り口でお辞儀をしている時から聞いている罵声で、ほぼ毎日聞こえてくる。
一人の男子が、複数人の男子達にいじめられているのだ。
可哀そうだとは思うけれど、相手は貴族様だから誰も手助けはしない。
周りにいる貴族達も特に気にしている様子はなく、何事もなかったように食事を続けている。
関わり合いにはなりたくないのだろう…。
こんな時、レイフィースなら助けに行くのかもしれないけれど、あたいにそんな勇気はない…。
「駄目だよ…」
「うん、分かってる」
シャリエットからも小声で注意されたし、あたいは次の食事を運ぶためにワゴンを押して厨房へと戻って行った…。
いじめは日増しに悪化して行き、ついにいじめられている男子は食堂に来なくなってしまった。
いじめていた男子達は気分良く食事をしているのに、いじめられていた男子が食事を出来なくされたのは理不尽だと思う。
「あの…貴族様の食事は、ここ以外で食べられますか?」
「貴族様はステラウィッチ学園から外出できないから、恐らく食事は出来ないでしょうね…」
「そんな…」
あたいは心配して他の人に聞いてみたら、そのような答えが返って来た。
食事を食べられないのは辛い事だし、長く続けば命に係わる。
特にあたいは能力の事もあって、数日食べなければ死んでしまう。
レイフィースに助けられた時は、本当に死ぬ間際だったんだと思う。
食堂に来なくなった男子とは話した事もないのだけれど、心配になって来た。
「それなら、貴方が食事を部屋まで運んでくれる?これがあの方の部屋の場所よ、あの人達に気づかれないうちに行ってきなさい!ほら、早く!」
「えっ、あっ、は、はい…」
食事の乗ったワゴンと地図を渡され、あたいは食事を運ばなければならなくなった。
気になっていたし、食事を運ぶのは構わない。
ただし、見知らぬ男子の部屋に行くのにはかなり抵抗があるけれど、迷っている時間は無い。
あたいはワゴンを押して、地図に書いてある男子の部屋へとやって来た。
「あの、すみません…」
部屋の扉を叩きながら声を掛けると、落ち込んだ表情をした男子が出て来てくれた。
「お食事をお持ちしました…」
「あ、ありがとう!」
男子は表情を明るくし、あたいを部屋の中に入れてくれた。
部屋のテーブルの上に食事を置くと、男子は喜んで食事を始めた。
やっぱりお腹が空いていたのだろう。
食事を持って来てよかった。
男子は食事を全て食べ終えたので、あたいは食器をワゴンに戻し、帰ろうとしたところで声を掛けられた。
「僕の名はアレグトン・ダルバード、食事を持って来てくれた事に感謝する」
「い、いいえ、貴族様が感謝されるような事では…し、失礼します!」
あたいが用意した食事ではないし、感謝されても困るので、早々に部屋から出て行った。
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