第五十話 ミュリエルの仕事 その二
≪ミュリエル視点≫
一日ぶりにレイフィースに会い、あたいの心は満たされたけれど、文字の読み書きを覚える授業は最低だった。
頭の悪いあたいは一度で覚えられず、何度もレイフィースに教えて貰う事になってしまった…。
レイフィースに教えて貰えるのはとても嬉しい事だけれど、レイフィースから馬鹿だと思われるのは嫌。
だから、必死に覚える事にした。
何とか覚えられたとは思うけれど、あまり自信は無い…。
仕事が終わってから、部屋で覚えなおそうと思う。
授業が終わったら、すぐに仕事に向かわないといけない。
レイフィースと別れるのは寂しい事だけれど、しっかり働いて稼げばレイフィースも喜んでくれるはず。
だから、仕事も頑張らないといけない。
あたいはレイフィースと別れた後、シャリエットと一緒に仕事へと向かっていった。
厳重に守られた門を通り、お姉さんから教えられた建物の前へとやって来た。
あたい達と同じように仕事をしに来た人達が、建物内に入っているから間違いはない。
建物内に入ると、同じ服装をした多くの女性達が忙しそうに行き来していた。
あたいはその人達の邪魔にならないように前へと進み、受付みたいなところへとやって来た。
「あの、仕事の見学に来たのですけれど」
「初めての方ですね。着替えてもらいますので、こちらに来てください」
あたいとシャリエットはお姉さんに連れられて、近くの部屋へとやって来た。
部屋の中には同じ服がずらりと並んでいて、そこの中から自分の体に合った服を選ぶように言われた。
服を選び終えると隣の部屋に連れていかれ、そこで服に着替えさせられた。
「いいですか、服は乱れが無いように着なくてはなりません。鏡を見て、服の乱れを直してください」
「う、うん…」
「返事は、はいです!」
「はい!」
「…はい!」
あたいとシャリエットは、お姉さんに叱られながら、服の乱れを何度も直させられた…。
その次は髪で、後ろで綺麗にまとめさせられた。
最後に化粧を軽くしてもらい、やっと着替えが終わった…。
「貴方達の今の姿を、毎日素早く丁寧に作り上げるのですよ!」
「「はい!」」
「次は、最低限の礼儀作法を覚えてもらいます」
お姉さんに何もない部屋へと連れていかれ、礼儀作法と言う堅苦しいものを何度も何度も教えられた…。
「いいでしょう、今日覚えた事は忘れないようにしてください。
では、明日からは仕事の見学をしてもらいますので、授業が終わり次第ここにきて服に着替え、私の所に来てください」
「「はい!」」
やっと終わり、あたいとシャリエットは疲れ果てて寮に帰って行った。
そして翌日授業が終わると、あたいとシャリエットは急いで仕事場に来て着替えた。
「シャリエット、おかしなところは無いかな?」
「ここがちょっと…」
「ありがと」
シャリエットと服の乱れを直し合い、慣れない化粧も二人でなんとかやってお姉さんの所にやって来た。
「良く出来ています。では、私について来てください」
「「はい!」」
お姉さんに合格を貰い、私とシャリエットはお姉さんに連れられて広くて豪奢な食堂へと連れてこられた。
「余所見をしない!貴方達はここに立って、貴族様が入出する際にお辞儀をするのです。いいですね!」
「「はい!」」
あたい達は食堂の入り口の脇に立たされ、お辞儀をさせられることになった。
あたい達以外にも立たされている人がいるから、そこまで恥ずかしくはないし、お辞儀をするだけなら楽な仕事だと思う。
やがて貴族様が食堂に入ってくるようになり、あたい達はお辞儀をし始めた…。
辛い…。
お辞儀をするだけなのに、非常に疲れる。
あたいはどちらかと言えば、動いている方が楽だと思う性格だ。
直立不動でお辞儀だけさせられている状況は、とてもとても辛い…。
「お前、やたらと黒いな?もしかして魔族か!?」
「ひ、日焼け…です…」
「ふんっ、そうか」
時折貴族様から声を掛けられ、魔族ではないのかと疑われる。
魔族の皮膚の色は確かに濃かったけれど、日焼けの色とはかなり違う。
実際に魔族を見たことが無い人なら、日焼けの肌も魔族と間違えるのかもしれない。
そう言えば、この国に来てから魔族やドワーフの奴隷は見ていない。
いたらまた、レイフィースが助けるとか言い出しかねないので、いなくてよかったと思う。
勿論、あたいも奴隷にされた人達の事は助けたいと思うけれど、レイフィースに無理はさせたくはない。
レイフィースの苦しむ姿は、もう見たくないのだから…。
その為にも、あたいはこの学園で文字の読み書きを覚えながら、お金を沢山稼がなくてはならない。
この学園を出た後で、レイフィースと結婚するために!
だから、こんな事で辛いなんて言ってはいられない!
あたいはその後も、貴族様に失礼が無いように気を付けながら、お辞儀をし続けて行った。
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