第四十九話 ミュリエルの仕事 その一
≪ミュリエル視点≫
ステラウィッチ学園に来て、レイフィースと離れ離れになるとは思ってもいなかった…。
レイフィースの言う通り、文字の読み書きを覚えないと良い仕事に就けないのは、美女と美食の宿屋でよく分かった。
分かるけれど…少しの間でもレイフィースと離れるのは嫌…。
嫌だけれど、今回は我慢するしかない…。
あたいはレイフィースと別れて、一人で寂しく寮へと向かって行った。
「こんにちは」
「あら、いらっしゃい」
寮に入って行くと、あたいより年上の女の人がいたので笑顔で声を掛けると、その人も笑顔で対応してくれた。
以前のあたいだと、絶対に笑顔を見知らぬ人に見せたりはしなかった。
美女と美食の宿屋で働いた事で、他人に対しても笑顔を見せる事が出来るようになっていた。
笑顔でお客さんに対応すれば、お客さんの方も気分を良くしてくれて注文も楽に済ませられると女将さんから教えて貰った事で、それは買い物に行った時も同じだった。
笑顔でお店の人と接していれば安くしてくれたり、おまけしてくれたりもする。
だから、今回も笑顔で接してみたのだけれど、間違いではなかったみたい。
「これは部屋の鍵なのだけれど、無くすとお金を貰うから大事にしてね。
部屋は二階に上がって三番目の二人部屋で、後からもう一人誰か入って来るかも知れないけれど、出来るだけ優しそうな人を入れるようにするから安心してね。
仕事の話をするから、荷物を置いたらもう一度ここに来てね」
「うん、分かった」
寮の受付も簡単に終わり、あたいは与えられた部屋へと入っていて荷物を置いた。
部屋は二人部屋で、お姉さんが後でもう一人入って来ると言ってたけれど…。
あたいはベッドに寝転がり、レイフィースの事を考えていた。
レイフィースはシャドルースと一緒の部屋になっているんだろう。
シャドルースが羨ましいと思うけれど、シャドルースはまだ子供で一人では何も出来ないから仕方がない。
あたいは大人だけれど、出来る事は少ない…。
ここでしっかりと勉強と仕事を頑張って、少しでもレイフィースの役に立てるようにならなくてはならない。
「よし!」
あたいは気合を入れてベッドから起き上がり、部屋から出て行こうと勢い良く扉を開けた。
「うぅ~痛い…」
「あっ、ごめんなさい!」
扉の前に誰かいたみたいで、あたいが開けた扉が顔に当たってしまった。
顔を両手で押さえてうずくまっている女の子に謝りながら事情を聞くと、どうやらあたいと同室の女の子だと言うのが分かった。
「本当にごめんね…」
「いいえ…もう…大丈夫です…」
女の子の額と鼻の頭が赤くなっていたけれど、血が出る程では無くて良かったと思う。
女の子を部屋に入れて介抱しつつ、少し話をする事にした。
「あたいはミュール、あなたの名前は?」
「えっ…あっ…シャリーの名前は…シャリエット…です…」
「シャリエット、今日から同部屋となるみたいだから、よろしく」
「あっ…はい…よろしく…お願いします…」
同部屋になったシャリエットは大人しそうだし、年齢も近そうだから上手くやって行けそうな気がする。
「あたいはこれから仕事の事を聞きに行くけど、シャリエットはどうする?」
「シャリーも…一緒に行きます…」
「そう、じゃぁ行こう」
「は…はい…」
あたいはシャリエットと一緒に、一階に下りて行った。
「仕事の説明をする前に、これまで何か仕事をして来ていたのなら教えて頂戴ね」
「あたいは食堂で働いていた」
「シャリーは…働いていませんでした…」
「そうなのね、じゃぁ、仕事について説明するわね」
お姉さんは何も分からないあたい達に、丁寧に仕事の事を色々教えてくれた。
「先ずは見習いと言う事で、他の人達の仕事ぶりを見て覚える所からね。
仕事は明日の昼前からだから、遅れないようにこの場所に行ってね」
「分かった」
「は…はい…」
あたい達に与えられた仕事は給仕で、あたいは美女と美食の宿屋での経験が生かせるので楽な仕事だと思う。
ただし、相手が貴族様と言う事で、失礼な事をしてはいけない。
貴族様と関わった事は無いし、関わり合いにはなりたくなかったけれど、仕事だから仕方がない。
あたいより、シャリエットの方が上手くやれるのかが心配。
最初は見て覚えるだけらしいし、それで合って無いか出来ないと判断されたら別の仕事に変えられるそうなので、心配する必要は無いのだけれどね。
シャリエットと部屋に戻り、少し話をした。
「ミュールは…いつまでここにいるの?」
「分からないけれど、春になるまではいると思う」
「そ…そう…シャリーも…それくらいかな…」
「一緒に頑張ろうね」
「は…はい…頑張ります…」
シャリエットとは一緒にいるのだし、仲良くして行こうと思った。
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