第四十七話 学園での初仕事

「終わったー!」

「よく頑張ったぞ!」

 私はシャドルースの頭を撫でてから、掃除の道具を片付けた。

 そして、お婆さんに掃除が終わったと報告に行くと、お婆さんは掃除の仕上がりを確認してくれた。


「まぁまぁだね。汗でも流して、夕飯まで自由にしてな」

「分かった」

 悪い所の指摘は受けなかったから、合格と受け取っていいのだろう。

 井戸へ行き、シャドルースと共に掃除で汚れた体を奇麗にし、ついでに服も洗濯した。

 冬前の季節で井戸の水は冷たかったが、体を動かした後だからそこまで気にはならなかった。

 夕食まで部屋でゆっくりと過ごし、シャドルースと一階にある食堂へとやって来たのだが…。


「人がいっぱいだね…」

「そうだな、少し待たないといけないみたいだ」

 来るのが遅かったからか、少し待たないと食事が出来ないようだ。

 食事も無料だし、待たされるくらいで文句を言ったりはしない。

 ただ…割り込みされるのには、文句の一つも言いたくはなる。


「おいお前、後から来たのなら後ろに並べ!」

「あぁん、俺様になんか文句あんのか!?」

 割り込んできた男は、私を睨みながら凄んできた。

 身長は私と同じくらいで顔に切り傷のあるやや強面の男だが、フォルガ村の大人たちに比べれば全然怖いとは思わない。


「もう一度言う、後ろに並べ!」

「てめぇ、俺様に舐めた口をきくとどうなるか教えてやるぜ!」

 男は私に殴りかかってきたが、動きが遅い…。

 私は男の拳を左手で受けとめ、右手で男の腕を掴んでそのまま廊下へと投げ飛ばした。

 男が反撃してくるかと身構えたが、どうやらあれだけで気絶してしまったらしい。

 見せかけだけの男だな…。


「レイ兄格好いい!」

 シャドルースが目を輝かせながら私を褒めて来たが、フォルガ村の男ならあれくらい出来て当然の事で誇らしくもない。

 それより、食事中の人達に迷惑をかけてしまったのではないかと思い、謝ろうとしたのだが…。


「兄ちゃんつえーな!」

「やるじゃねーか!」

「あいつ、皆から嫌われてんだ!」

 食事をしていた人や並んでいた人達から、盛大な拍手を貰う事になってしまった。

 まぁ、割り込みなどしていれば嫌われるのは当然のことだな。

 私とシャドルースはそのまま並び続け、やっと食事を得られる番が来た。

 食事のメニューは無いが、量の増減は言えるらしい。

 私とシャドルースは大盛を頼み、貰った食事を二人で席について食べる事にした。

 シャドルースは年齢を覚えていないのが、見た目で十二、三歳くらいだと思う。

 育ち盛りなので、俺と同じくらいの量は平気で食べる。

 運動した後などは、ミュリエルと同じくらい食べる事もあるくらいだ。


「シャド、足りるか?俺のも食べて良いぞ」

「ううん、大丈夫だよ!」

「そうか」

 掃除で体力を使ったし、お腹もいつもより減っているのではないかと思ったが大丈夫のようだ。

 食事を終えて食堂から出ようとしたところで、先ほどの男が列に並んでいるのを見かけた。

 大人しく列に並んでいるし男も私から目をそらしたので、もうあんなことはしないだろう。

 部屋へと戻り、明日に備えて早めに寝る事にした。


 ガンガンガンガン!!!

 金属を叩く大きな音で、目を覚まさせられた。


「レイ兄、なぁにぃ~」

「どうやら起床時間のようだ」

 窓の外はまだ暗かったが、お婆さんが元気な声で起きれと叫んでいる。

 私とシャドルースは素早く着替えて、一階へと降りて行った。


「あんた達は初めてだったね。皆について行って仕事をしてきな。分からない事はそこのイコフに聞きな」

 お婆さんについて行けと言われた男は、昨日私が投げ飛ばしたやつだった。

 お互い気まずい雰囲気になったが、ここは私が後輩として教えを乞わなくてはならない。


「昨日は済まなかった、今日はよろしく頼む」

「お、おう、仕方ねーな、俺様が仕事を教えてやるからついてこい」

 私とシャドルースはイコフの後に続いて、皆と一緒に寮を出て行った。

 少し歩いて行くと、大きくて立派な鉄の門の前へとやって来た。


「ここからが貴族様の学園だ。大人しく仕事だけをするんだぞ」

「分かった」

 門が開き、私達は仕事をするために貴族の学園の敷地内へと入って行った。

 そこからは皆は自分の仕事場へと素早くバラバラに移動していき、私とシャドルースはイコフに黙ってついて行った。


「学園の廊下掃除が俺様たちに与えられた仕事だ。夜が明ける前に終わらせないと、朝飯が食えねぇから頑張れよ!」

「分かった」

「うん、頑張る!」

 三人で手分けしながら、昨日と同じように廊下の掃除を行っていった。


「まっ、こんなもんだろ!」

「これで仕事は終わりか?」

「朝の分はな!他の仕事がやりたければ、婆さんに聞け」

「そうか、ありがとう」

「気にするな、それより急いで戻らないと飯にありつけないぞ」

「お腹空いたよ!レイ兄走って帰ろう!」

「よし、そうするか!」

「あっ、俺様を置いて行くな!」

 三人で走って寮へと帰り、三人同じ席に座って朝食を食べる事になった。

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