第四十五話 ステラウィッチ学園 その一

「おいら剣術を教わりたいよ!」

「あたいはレフィーと一緒なら何でもいい」

「剣術は俺も教わりたいが、まずは文字の読み書きからだ」

 文字の読み書きと聞いてミュリエルは嫌そうな表情を浮かべ、シャドルースはがっかりしていた。

 授業次第では剣術も教わる事は可能だろうけれど、まずは文字の読み書きを覚えてからだな。

 さっそく、お姉さんに明日の予約を取って貰う事にした。


「文字の読み書きですね。朝一の時間と午後一の時間がありますが、どちらに致しますか?」

「朝一で頼む」

「分かりました、三人とも同じ授業でよろしいですか?」

「頼む」

「分かりました、中銅貨十五枚になります。お名前を教えてもらえますか?」

「レフィー、ミュール、シャドだ」

 私はお金を支払いながら、お姉さんに三人の名前を教えた。

 しばらくはレイフィースと言う名は使えないので、愛称にしておいた。

 全く別の名前にすることも考えたが、亡くなった両親から授けられた名前を簡単に捨てられるはずもない。

 似たような名前は多いし、二国離れたここまで追って来る事は無いだろう。


「授業はケルベロス棟の三階になります。ケルベルス棟の位置はこちらです」

 お姉さんは地図を取り出し、授業が行われるケルベロス棟の位置を教えてくれた。

 ここから結構離れた場所にあるが、建物には名前の通りケルベロスの絵が描かれているから、その絵を探してくださいと教えられた。


「授業開始時間前に鐘が一回鳴らされ、開始時間には鐘が二回鳴らされますので、鐘が一回鳴った時には部屋に入っていてください。

 それと、こちらの板を授業を受ける際に担当の者にお渡しください」

 お姉さんは私達に、小さな板を渡してくれた。

 板には何か書かれているが、文字を読めない私には分からない。

 これが無いと授業が受けられないので、無くさないようにしなくてはならないな。


「他に何か聞きたいことはありますか?」

「あぁ、仕事もここで出来ると聞いて来たんだが?」

「はい、仕事はありますが受付は別の建物になります。馬の絵が目印になりますので、そちらに行ってみてください」

「分かった」

 お姉さんは地図を指さして、仕事が受けられる建物を教えてくれた。

 ここから結構離れた位置にあるみたいだが、時間はあるし行ってみる事にした。


「レイ兄、色々な魔物の絵が見れて楽しいね!」

「そうだな、あれは会った事は無いがメデューサみたいだな」

 受付の建物から出てステラウィッチ学園内に入ってみると、学園の建物の壁に大きく魔物の絵が描かれていた。

 私達が授業を受ける事になる建物はケルベロス棟と教えられたから、ケルベロスの絵が描かれている建物を探せばいい事になる。

 文字が読めない私達のような者達にも、簡単に探せるような配慮がされている。

 それと同時に、魔物がどの様な見た目なのかも知る事が出来て、魔物に襲われた際にどの魔物かすぐに分かるのは良いと思う。

 ただし、魔物の種類が分かったからと言って、戦えるかは別の話になるがな。


「レフィー、あれかな?」

「あぁ、明日授業を受ける建物はあれだな」

「ケルベロスって、格好いいね!」

 ケルベロスは三つの頭を持った犬型の魔物で、私は遭遇した事は無いが非常に危険な魔物だと教えられていた。

 ここに描かれていると言う事は、この付近に生息地があるのかもしれないな。

 ケルベロス棟からかなり歩いた所で、やっと馬の絵が描かれている建物へと到着した。

 私達が建物内に入ると、ここも人であふれかえっていた。

 私達は列の最後に並び、三十分ほどで私達の順番が回って来た。


「こちらの利用は初めてですか?」

「そうだ」

「では、仕事内容や就業時間の説明をいたします」

 お姉さんの話によると仕事は貴族側の学園内仕事で、仕事を受ける前に仕事が出来るかの試験を受けなければならないらしい。

 貴族との付き合い方とも覚えないといけないし色々大変そうだが、給料はかなりいいらしい。

 上手くやれば、授業料を払ってもお釣りがくるくらいの稼ぎになるそうだ。

 それと、仕事を受けるのなら、ステラウィッチ学園内にある寮に入らないといけないそうだ。

 仕事をするのだから、いつでも呼び出せる場所にいて貰わないと困るというのは分かる。

 寮は無料で使えると言う事だし、こちらとしては非常にありがたい。


「試験期間中も寮を使用できますが、どうなされますか?」

「頼む」

「分かりました。寮は男女に分かれていますので、男性の方は左の通路から、女性の方は右の通路から出た先にある建物が寮となります。

 寮に入る際には、こちらの板を首から下げておいてください」

「分かった」

 お姉さんからひもの付いた板を貰い、それを首から下げた。

 お姉さんが何か書き込んでいたから、恐らく私達の名前が書いてあるのだろう。

 早く文字が読めるようにならないと、不便で仕方がないな。

 それは明日からの授業で習えるのだろうし、しっかり覚えて行こうと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る