第四十三話 シャドルースとの旅

「シャド、最終確認だ。俺達はこの国にはいられなくなったので他の国へと移動する。

 当然普通の道は使えないから、魔物の出る危険な場所を通って行く事になる。

 死ぬ可能性も高いし、満足に食べられない事もあるかも知れない。

 それでも俺達について来るか?」

「うん、おいらはレイ兄に何処までもついて行くよ!」

「分かった、シャドが成人して独り立ちするまでは、俺が責任をもってシャドを守るからな!」

「うん!」

 シャドルースは迷うことなく、私達について来ると言ってくれた。

 シャドルースを助けてから今日までは、何となくついて来てもらっていたし、シャミール町には置いて行けばまた捕まる可能性が高い上に食べるのにも苦労する事だろう。

 それは、他の町に連れて行ったとしても状況は変わらない。

 私は最初からシャドルースを連れて行くつもりだったが、それは私の望みであってシャドルールの望みでは無い。

 だから最後に確認をし、シャドルースがついて来てくれると言ってくれた事は非常に嬉しかった。

 非常に重い責任を負う事になるが、責任を負えないようなら助け出したりはしてない。

 ミュリエルとシャドルースの二人を守るのは大変だろうけれど、精一杯頑張って行こうと思う。


『二人目の命も無事助けられたな。残り五人も頑張るのだぞ』

 突然、頭の中に神様の声が聞こえて来た!

 すっかり忘れていたが、私には七人の命を助ける使命があったな…。

 シャドルースを助けたのは使命とは無関係だし、これからも使命の為に人助けをして行こうとは考えていない。

 そもそも、狙って人助けをするものでは無いし、私はこれからも使命を前提として人助けはやっていくつもりはない。

 その結果として転生出来なかったとしても、私はそれを受け入れるつもりだ。


 それに、シャドルースを助けられたのは、シャドルースが生きようと頑張った結果であって、私はほんの少しだけ手助けしただけに過ぎない。

 現に、九人の子供達の命は助けられなかった…。

 今も、九人の子供達の笑顔と変わり果てた姿を思い出すと、胸が張り裂けそうなくらい痛んでくるし、死にたくなってくる…。

 仮にシャドルースが生き残っていなかったとしたら、私はあの場で自分の心臓を突き刺して自殺しようとしたかもしれない。

 呪われた不死の能力があるから心臓を突き刺した所で死ぬことは無いが、私の心は死んでいただろう…。

 そうならなかったのはシャドルースが生きていてくれたおかげであるし、私がシャドルースに助けられたのだ。

 神様から助けたと言われても納得いかないが…これからシャドルースを守って行く事で納得して行こうと思う。


「レイ兄はミュリ姉を甘やかし過ぎだと思うよ!」

「そうか?」

 シャドルースを含めた三人で旅を始めて数日が経った頃に、シャドルースからミュリエルを甘やかしすぎだと怒られてしまった。

 ミュリエルの食事は私が食べさせてやっているし、夜は私の膝枕で眠らせてやっている。

 しかし、日中は一人で歩かせているし、魔物の狩りも積極的にやらせている。

 私としては、甘やかし過ぎとまでは言えないと思っているのだがな…。


「もしかして、シャドも甘えたいのか?」

「そんなんじゃないよ!ミュリ姉が駄目な大人になるって言ってるんだよ!」

 駄目な大人か…。

 ミュリエルは美女と美食の宿屋ではしっかりと働いていたし、余程の事が無い限り人前では私に甘えてくることは無い。

 私はシャドルースを家族だと思っているし、ミュリエルもシャドルースを自分の弟のように可愛がってくれている。

 身内の前で甘えるくらい、許してやっても良いと思えるのだが…そうか!


 シャドルースはまだ子供だし、甘えたい年頃に違いない。

 男だからと言って、厳しくし過ぎていたのかもしれないな…。

 厳しくとは言っても、武器の扱い方も知らないシャドルースに魔物と戦わせたりはしていない。

 せいぜい、シャドルースが歩き疲れたと言っても、体を鍛えさせるために無理にでも歩かせているくらいだ。

 休憩はミュリエルと二人旅の時以上に取っているし、水分補給も欠かしてはいない。

 夜には、疲れがたまっているシャドルースの足をマッサージしてやっているし、私としては厳しくしていないつもりだった。

 しかし、もう少し優しくしてやらないといけないみたいだ。


「シャド、何かして欲しい事があるか?」

「そ、それは…」

「遠慮しなくていいぞ」

「じゃぁ、一つだけ!おいらにも魔物との戦い方を教えて欲しいよ!」

「戦い方か…」

 魔物との戦いは、食うか食われるかの戦いで非常に危険だ。

 それに、今はこの国から出るのが優先であって、シャドルースに戦い方を教えている暇はない。

 だけど、私がシャドルースに希望を聞いてやったのだから、その願いは叶えてやらなければならない。


「分かった、だがそれは、俺達が無事に住める街についてからだ。今は一刻でも早くこの国から出なくてはならないからな」

「うん、じゃぁ約束だよ!」

「あぁ、約束だ!」

 ミュリエルに続いて、シャドルースとも約束をしてしまった。

 シャドルースとの約束を果たすためにもこの国から逃れ出て、安全に住める場所を早く見つけないといけないな…。

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