第四十話 国境へ

「レイフィース、生きているか!今治療できる魔族を呼びに行っているからな!」

「だ、大丈夫だ…」

 戦いに勝利し、敵は敗走していった。

 私は槍を杖代わりにして、何とか立っている状態だ…。

 全身斬り刻まれていて感覚は麻痺しているし、本当ならこの場に寝転がっていたい。

 しかし、そうすれば皆に余計な心配をさせてしまうし、このまま集中して傷を治し、動けるくらいにはならないといけない。


「あんな無茶な戦い方をして、あんた死ぬ気なの!?」

「いや、俺は…」

「そんな事をしてたら命がいくつあっても足りないわよ!誰もあんたに死んで欲しいとは思っていないのだからね!」

 私の前に魔族の女性が空から舞い降りてきて、私に散々文句を言いながらも魔法で私の怪我の治療をしてくれた。


「ありがとう」

「ふんっ、べ、別に、あんたの為にやったんじゃないわよ!」

 私がお礼を伝えると魔族の女性は照れ臭かったのか、顔を横に背けながら飛んで行ってしまった。

 何にしても、治療してもらえて体の麻痺や痛みも無くなったし、後でもう一度お礼を伝えようと思う。


「レフィー!」

「レイ兄!」

 魔族の女性と入れ替わるようにして、ミュリエルとシャドルースが私の所に駆けつけて来てくれた。

 二人はその勢いのまま私に抱き着いてきたが、私は何とか倒れずに受け止める事が出来た。


「二人とも心配かけたが、治療もして貰ったし無事だ」

「うん、良かった…」

「レイ兄、いっぱい斬られてたけど大丈夫なんだよね?」

「うん、もう何ともないぞ!」

 ミュリエルは私が死なない事は知っているが、シャドルースにはまだ教えてなかったな。

 後で説明しておくことにしようと思う。


「さぁ、ゆっくりしている暇はない。被害状況を確認したのちに移動を再開しよう!」

「「分かった」」

 二人に離れてもらい、私は被害状況を確認するためにルトルトの所へ向かっていった。


「五人亡くなったのか…」

「彼らは戦士として勇敢に戦い、戦士として死ぬ事が出来たのだ。嘆くことは無い!」

 ドワーフ達が集まっている場所には、五人のドワーフが横たえられていた。

 ルトルト達は、嘆くことは無いと言いつつも涙を流している。

 守り切れなかったことを悔やむが、私も万能ではない。

 今はただ、安らかに眠っていただくことを祈るしかない…。

 亡くなった五人の埋葬が終わり、私達は感傷に浸る間もなく移動を再開した。

 仲間のために戦い亡くなった五人の為にも、残された者達を故郷へと無事に送り届ければならない!

 私は決意を新たにし、再び襲われないような道を慎重に選んで国境を目指していった。


 二週間が過ぎ、私達は再び襲撃される事なく、国境付近へと無事にたどり着く事が出来た。


「レイフィース、本当に感謝する!」

「いいや、お礼を言われるような事はしていない。むしろ、俺が原因で襲われることになり五人の命を失わせてしまった。改めて謝罪する!」

 ルトルト達とはここでお別れとなる。

 最後まで送り届けてやりたかったが、人の私達がドワーフや魔族の国に行くことは出来ない。

 いや、私一人なら行ってたかもしれないが、ミュリエルとシャドルースを連れて行くことは出来ない。

 ミュリエルとは約束があるし、言葉も分からない国に行って仕事をして稼いでいくことは出来ないだろう。

 子供のシャドルースには色々教えなくてはならないし、将来は結婚相手も探してやらないといけないかも知れない。

 ドワーフや魔族の国に行ってはそれが出来ないので、私達はまた別の国へと行くしかない。


「わしらの国で歓迎するぞ?」

「魔族のウィルテラ国に来てくれ!」

 ドワーフと魔族からは何度も誘われたが、断るしかなかった。

 それと、ドワーフと魔族の国に行けば、また人と戦う事になるのは確実だ。


 シャミール町で奴隷として捕まっていた人達は助け出したが、他の町にも捕まっている人が多くいる。

 ルトルト達もその事は知っていたが、他の町に捕らわれている仲間たちの救出は行わなかった。

 何故なら、他の町を襲って仲間の救出を行えば、全員死ぬことになるのは確実なのはルトルト達も理解していたからだ。

 前回襲撃をしてきたのはシャミール町で警備をしていた者達で、他の所からの襲撃ではなかった。

 町を次々と襲えば他の町の警備の者達との戦いにもなるし、ガイガル国の軍も動員されることになっただろう。

 ルトルト達にとっては苦渋の決断だったが、こうして多くの人達が無事にこの国から脱出できたことを考えれば、正しい判断だったと思う。

 そして、ルトルト達は自国に戻り、仲間の救出のために戦いに行くのだろう。

 その時私は黙って見ている事が出来ず、ルトルト達と共にガイガル国と戦う選択をするはずだ。

 美女と美食の宿屋のルベルとセディ人にはお世話になったし、人と戦うのはやはり躊躇ためらわれる。


「ふんっ、貴方は私が治療してあげなかったら、あの時死んでいたんだからね!」

「あぁ、それは忘れていない、ありがとう!」

「借りにしといてあげるわ!」

「レイフィース、ザザリッチ国に来ることがあれば、わしを訪ねて来てくれ。いつでも歓迎するぞ!」

「あぁ、その時は頼りにさせてもらう」

「ではまたな!」

 ルトルト達と別れを告げ、私達は彼らの姿が見えなくなるまで見送っていた…。

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