第三十九話 追手との戦い

「ルトルト、追手が迫って来ているみたいで戦いは避けられそうにない。

 戦いやすい場所に陣取って迎撃しようと思うが、皆と相談してくれないか?」

「分かった、少し待ってくれ」

 私達がシャミール町を逃げ出してから二週間が経過し、偵察に出てくれていた魔法で空を飛べる魔族の人から、百人程度の武装した者達が近づいて来ていることを知らせてくれた。

 ルトルト以外にも数名人の言葉を話せる者はいるが、大きな決定をする時は向こうの話し合いを待つことになる。

 二百五十二名の命を預かる決定だから、私とルトルトだけで決めることは出来ない。

 緊急時には私の独断でも構わないと言われているが、まだ時間的には余裕があるから決定を待つしかない。


「待たせたな、レイフィースの提案通り迎撃する事にし、今迎撃に適した場所を探しに向かわせた」

「分かった、そちらの戦いやすい場所を選んでもらって構わない」

 私は単独での戦いは得意だが、集団戦の経験はほぼない。

 だから、今回の戦いはドワーフと魔族の指示に従う事にしようと思う。


 迎撃する場所が決まったみたいで、私達はそこに向かって移動していった。

 移動した先は山の中腹にある森の中で、足場は斜めになっていて最悪だし、木々が邪魔してまともに戦える場所ではない。

 だが、魔族が戦うには最適な場所なのだそうだ。


「レイフィース、敵が来たら魔族達が魔法で攻撃を仕掛ける。それでも近づいてくる者達がいたなら、わしらドワーフ達で倒すことになっている」

「分かった、俺も前衛に出て戦おう!」

「いいのか?」

「あぁ、俺も…いや、俺が一番狙われているはずだからな。俺が戦わないわけにはいかない!」

 私は町長を殺し、シャミール町で奴隷として働かせていたドワーフと魔族を解放した極悪人だ。

 追手は、私に差し向けられたと考えるのが普通だろう。

 ならば、私が戦わないという選択はあり得ない。


「ミュールはシャドと共に後ろに下がっていてくれ」

「あたいも戦う!」

「ミュールにはこの場所では無理だ、ミュールも分かっているだろう?」

「う、うん…レフィー、無理はしないで!」

「分かってる」

 ミュリエルとシャドルースを後ろに下げ、私は木の陰に隠れながら弓を構えて敵の接近を待つことにした。


 木の上に登っている魔族から、敵の接近を知らせる合図が来た。

 私は弓に矢をつがえ、敵が見えるのを待つ…。

 やがて、武装した集団が視界に入って来た。

 金属製の鎧を身にまとった者達は、歩きにくそうにしながら山の斜面を登って来ている。

 集団の半分くらいが確認できた所で、木の上に登っていた魔族が攻撃の合図を発した。

 魔族達が一斉に魔法を放ち、武装した集団に襲い掛かって行った!

 私も狙いをつけて矢を放ったが、魔法と衝突して上手く当たらなかったので、矢を放つことを諦めた…。

 父なら、こんな中でも相手に命中させたのだろうし、父が生きていたら訓練不足だと怒られていたに違いない。

 弓の訓練は怠らずやって行こうと思いながら槍に持ち替え、敵の接近に備える事にした。


 魔族による魔法攻撃が一度収まると、敵の被害状況を確認する事が出来た。

 敵の被害は二割程度で、残りは魔法攻撃に耐えきっていた。

 この結果はある程度想定済みだ。

 なぜなら、魔法に対抗する防具を身に着けているのは、この世界で常識だからだ。

 私の身に着けていている防具も、魔法の被害をかなり軽減してくれる。

 防具を身に着けていない場所に当たれば、それなりの被害を受ける事になるだろうが、魔法攻撃が来ると分かっていれば防げないと言う事は無い。

 敵が盾を構えて防いでいたし、これ以上魔法を撃ち込むのは無駄だと魔族達も判断したのだろう。

 ここからは私とドワーフ達の出番だ。


 私は槍を握りしめながら斜面を一気に駆け下り、その勢いのまま槍を敵に突き刺した!

 ドワーフ達も私の後に続いて、敵を倒していた。

 そこからは乱戦となり、私は出来る限りドワーフ達より前に出て戦うよう注意していった。

 前に出れば当然敵から囲まれることになり、私は敵から斬られてしまう。

 だがその代わり、ドワーフ達への被害が少しでも減る事になる。

 私は神様から与えられた能力により死ぬことはないが、ドワーフ達が斬られれば死んでしまう可能性もある。

 せっかく奴隷から解放され、もう少しで故郷に帰る事が出来るのに、こんな所で死なせるわけにはいかない!


「町長は何の罪もない子供たちを攫い、無残にも殺害した!俺はその町長が許せず殺害した!文句のあるやつは俺にかかってこい!」

 私は敵に叫び続ける事により、少しでも私に敵の注意が向くよう仕向けながら、必死に敵を倒し続けて行った…。

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