第三十八話 奴隷達の救出 その三

「ミュールは俺の背後に、シャドは皆と一緒について来てくれ」

「うん、分かった!」

「レイ兄、ミュリ姉、気を付けてね!」

「ルトルト達は手筈通り、仲間の救出を優先してくれ」

「任せろ!」

 私達は深夜、隠れていた場所から町へと移動し、奴隷が使われていた店や家の場所へとやって来た。

 私とミュリエルは救出には向かわず、案内と護衛が役目だ。

 言葉が分からない私が家の中に救出に向かった所で、素直に応じてくれないだろうからな。


「レイフィース、次を頼む!」

 ルトルト達が無事に仲間を救出し、私は次の場所へと移動を開始した。

 二軒目、三軒目と救出を続け、五件目あたりで町の警備の者達が異常に気付いて駆けつけて来た!


「お前達何をしている!」

「見て分かるだろう、捕らえられた仲間の救出だ!大人しく下がればこちらからは攻撃をしない!

 しかし、攻撃して来るなら容赦はしないぞ!」

「くっ!おい、下がるぞ!」

「し、しかし…」

「数が多すぎる、我々だけでは無理だ!下がれ!下がるぞ!」

 警備の者達はこちらの数を見て、逃げ帰って行った。

 こちらの数は三十人を超えていて、駆けつけてきた警備の者達は五名程だった。

 三十人の内、戦えるのは数名ほどだが、夜中に相手がそれを判断する事は不可能だろう。

 警備の者達が数を揃えて戻って来る前に、救出を急がなくてはならない!

 非戦闘員とは言え、こちらの数が増えたことで救出も容易になって来た。

 奴隷を使っている者たちの中には、この騒ぎをいち早く聞きつけたのか、奴隷を家の外に追い出している所もあった。

 そうした事もあり、救出は順調に行えていた。


「ここで最後だ!」

 私とミュリエルで調べ上げた場所は全部回り、仲間の救出を無事に終える事が出来た。

 私達はそのまま町の出口へと向かって行くと、門の前では私達を逃がすまいと、警備の者達が二十人ほど待ち構えていた。

 私は一歩前に出て、警備の者達に大声で伝えた!


「死にたくなければ道を開けろ!さもないと蹂躙するぞ!」

 警備の者達はこちらの数を見て、かなり怯えている。

 それもそのはず、こちらは二百人を超えた人数がいて、前衛には武器を持ったドワーフ達で固めていた。

 その後ろにいるのは非武装な者達だが、魔族は魔法が使えるから武器を持っていなくとも戦力になる。

 警備の者達から見れば、どう足掻こうと勝てる見込みは皆無だ。

 一人逃げ出すと、他の者達も続けざまに逃げ出して行った。

 私は門を開け、仲間達を町の外へと逃げだすのを見守っていた。

 仲間達は歓喜の声を上げながら、町の外へと駆けだして行っている。

 中には涙を流して喜んでいる者達もいた。

 私は奴隷になった事が無いので、彼らの苦労や屈辱を知りえる事は出来ないが、助け出せてよかったと心から思った。

 全員が街の外に出たのを確認し、私も町の外へと逃げ出して行った。


 追撃が無いか心配していたが、今の所その様子は見られない。

 やはり、町の警備の数は少なくなっていた事が効を奏した結果となったな。

 しかし、仲間達を国へと無事に送り届けるまで、油断する事は出来ない。

 大人数での移動になるので、どうしても人目についてしまうだろう。

 最悪の場合、軍と戦う事になる事を想定しておいた方が良いかも知れないな…。

 今後起こりうる最悪な事態を想定しつつ、ルトルト達と話し合って行こうと思う。


「魔法は素晴らしいな!」

「ふふんっ!これくらい魔族にとっては当然の事よ!」

 一番の心配事だったのは、飲み水の確保だ。

 食料は、移動中にある山菜や魔物を確保できれば何とかなる。

 しかし、飲み水だけは川がある所で無いと確保できない。

 全員分の水筒も用意できていないし、飲み水をどう確保しようかと悩んでいたのだが、魔族の人達は魔法で簡単に飲み水を出してくれた。

 飲み水の心配が無いのだから、逃げ道は自由に選択できる。

 出来る限り水場の無い場所選んで逃げる事によって、追手の追跡を鈍化させる事も可能となる。

 人の中にも水を出せる魔法使いがいるかもしれないが、数十人、数百人の飲み水を確保出来る魔法使いはいないと魔族達が断言していた。

 魔法に関して素人の私は、素直にその言葉を信じる事にした。


 今の季節は春で、日中の移動もそう苦労はしない。

 夜は少し肌寒くはなるが凍える程では無いし、何よりミュリエルと一緒に寝ているから、外でも全然寒さを感じない。

 ドワーフや魔族達も、身を寄せ合って夜の寒さをしのいでいる。


「レイ兄、おいらも混ぜてくれよ!」

「いいぞ、こっちに来い!」

「やった!えへへっ、レイ兄はあったかいね!」

 シャドルースは、寝ている私の右手側にしがみついて来た。

 ちなみに左手側にはミュリエルがいて、シャドルースがしがみ付いて来たので、やや不機嫌そうにしながらも私により強く抱き付いて来ていた。

 ミュリエルに抱き付かれて眠るのは毎日の事なので良いのだが、ミュリエルの強い力で抱き付かれるのは少々痛い…。

 シャドルースは男だし、嫉妬しないで貰えると助かるのだがな…。

 そんな事より、皆を無事に国へと送り届けてやらなくてはならない。

 二人の寝顔を見ながら深夜まで、色々考えを巡らせていった…。

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