第三十七話 奴隷達の救出 その二
「少し狭いが、数日間はここでじっとしていてくれ。それと、下調べが終わるまでは勝手な行動をしないよう徹底させてくれ」
「分かった、約束しよう」
私は一人でルトルト達の所に戻り、廃屋まで案内して来た。
ルトルト達にはここに隠れていて貰い、その間に私が捕らえられている奴隷達の居場所の把握をする。
その後、一気に奴隷達を助け出し、この町から逃げ出す計画だ。
人数が多くなればなるほど逃亡は難しくなるが、何とかしなくてはならない!
ドワーフ達も武器があれば戦えると言っているし、魔族達は魔法で戦うのが得意だと言う。
しかし、ドワーフと魔族は、人が持っている能力の様なものは無いと言う事だった。
能力は無いが、人より力強いのがドワーフで、人より魔法に長けているのが魔族なのだそうだ。
人の中にも魔法を使える人がいるが、その数はあまり多くは無いと以前父から教わっていた。
当然私も魔法が使えない、と言うより、習って無いから使えるかどうかも分からない。
フォルガ村には魔法が使える人がいなかったからな…。
魔法は使えるなら使って見たいと思っているし、子供を治療した魔法は使えたらとても便利だと思う。
余裕があれば教えて貰いたい所だが、今はそんな事をしている暇はない。
「そう言えばお前の名前を聞いていなかったな。俺の名はレイフィース、良ければ名前を教えて貰えないか?」
「…名前は捨てた、にーちゃん、おいらに名前を付けてくれよ!」
出掛ける前に子供に名前を聞くと、少し暗い表情になりながら名前は捨てたと言われた。
この子の状況を考えれば名前を捨てた事にも納得するが、新しい名前を付けてくれと言われてもすぐに思い浮かばない。
「分かった、名前は考えておく。お前はルトルトと協力して、皆を守っていてくれ」
「うん、分かったよ!」
「ミュール、行くぞ」
「うん!」
私はミュリエルを連れて、町の中へと出かけて行った。
「ミュールは町の中に詳しいよな?」
「うん、でも行った事の無い所もいっぱいある」
「先ずは、ミュールの知っている場所で、奴隷が使われている所に案内してくれ」
「分かった」
ミュリエルの案内で、奴隷が使われているお店や家を回って確認して行った。
その際に食料も買い込み、一度ルトルト達の所に戻って食料を届けてやった。
その後、ミュリエルの行動範囲外へと足を延ばし、見える範囲で奴隷が使われているかどうかを確認し続けて行った…。
その作業を三日間続け、大方の目星は付けられたと思う。
「おおよそ確認出来た人数だが二百人位だと思うが、家の中に居る者達までの数は把握できておらす、これ以上の数になると予想される」
「そうか、では今夜決行する事で良いのだな?」
「構わない。それと、俺が町長を殺害した事で捜索隊が結成され、町の警備が手薄になっているので、今しか助け出す機会は無いだろう。
それと脱出経路だが、二百名を超える者達で川の中を通る事は現実的ではない。
門を突破して逃げる事になるが、問題無いな?」
「問題無い」
ルトルトとの打ち合わせを終え、ルトルトには他の者達への説明を行って貰った。
その間に私は、この三日間考え抜いた名前を子供につけてやる事にした。
「お前の新しい名前はシャドルース。この名前は、かつて俺が住んでいた村にいた強い戦士の名前から取ってつけた名だ」
「シャドルース…レイ兄、いい名前をありがとう!」
フォルガ村には大まかにフィース家、ルース家、バート家の三つの男性だけが受け継ぐ名前があって、シャドルースにはルース家から名前を貰って付けてやった。
私のフィース家を付けてやろうかとも考えたが、妹ステイリーに嫉妬されそうなので止めておいた。
ちなみにシャドルースは私の事をレイ兄と呼ぶようになり、ミュリエルの事はミュリ姉と呼ぶようになっていた。
シャドルースの事も愛称で呼んでやる必要があるだろう。
シャドかシャルになるだろうが、それは本人に確認して気に入った方で呼ぶ事にしようと思う。
決行前に腹ごしらえをし、武装も再確認しておいた。
今日の日の為に、安物の武器はある程度買い揃えてはいたが、防具まで買ってやる余裕は無かった。
ルトルト達には申し訳ないが、私は裕福では無いのだからな。
「ルトルト、人が憎いのは重々承知しているが、戦う意思が無い者を不用意に殺害しない様に徹底させてくれ。
もしこれが守れないのだとしたら、俺達は協力してやれない!」
「分かった、わしら野蛮では無い。だが、抵抗された場合は許容して貰うぞ」
「それは当然だ!俺も攻撃して来た者には容赦はしない!」
今まで奴隷として虐げられていた者達の恨みは分かるが、その恨みを晴らしている時間は無い。
一刻も早く全員助け出し、町の警備が整う前に逃げ出す事が重要だ。
私達は皆が寝静まる夜を待ってから、救出作戦を実行する事にした。
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