第三十六話 奴隷達の救出 その一
「俺の名はレイフィースで、こっちはミュリエル。埋葬を手伝ってくれた事に感謝する」
「ルトルトだ、わしらも助けられた礼をしたかっただけの事で、気にする事は無い」
私は長い白髪の髭を生やしたドワーフのルトルトを通じて、埋葬を手伝ってくれた皆に感謝を伝えた。
「レイフィース、屋敷から出してくれた事に感謝する。わしらはここで別れさせて貰う」
「おい、どこに行くんだ。安全な場所まで送るぞ」
屋敷から出して、はいさよなら、と言う無責任な事はしない。
ルトルト達を安全な国外迄送ってやらないと、助けた事にはならないだろう。
そう思ってルトルトに伝えたのだが、ルトルトは首を横に振っていた。
「わしらはこれから町に行って、捕らえられている仲間の救出を行う」
「えっ!?死にに行く様なものだぞ!」
「たとえ死んだとしても、捕らえられておる仲間を放置して、自分だけ逃げ帰る事など出来ぬ!それが、わしらの総意だ!」
ルトルト達の決意は固い様子で、男女問わずやる気に満ちた目をしていた。
ルトルト達の数は十二人で、私とミュリエルが倒した屋敷の護衛から奪い取った武器を持っている者もいる。
だが、それだけの武装で町に襲撃を掛けても無駄死にになるだけだ。
私とミュリエルが働いていたシャミール町はかなり大きく、町をぐるりと囲う高い壁で守られている。
入り口は四か所あるが、何処も厳重に守られている。
十二人で侵入しようとしても、入り口の警備している者達によって排除されるだけだ。
私も、仮にフォルガ村の人達が生きていて捕まっていたとしたら、何があっても助け出しに行くだろうから、ルトルト達の気持ちは良く分かる。
だが、計画も無しに襲撃するのは、無謀としか言いようがない。
「ルトルト、待ってくれ!俺も手伝うから計画をしっかりと立ててから実行しないか?」
「なに?お前は何を言っているのか分かっているのか?」
「分かっている、俺は町長を殺したのだから、この国にいられるはずもない」
「それはそうだが…良いのか?」
「構わない」
私はルトルトと話し合い、ルトルト達の仲間の救出を手伝う事になった。
この日は夜も遅くなっていたのでこの場で野宿をし、明日から救出作戦を行う事となった。
そして翌日、屋敷から助け出した子供が目を覚ましてくれた。
「う、うーん…あれ…兄ちゃん…おいらは…あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「大丈夫、もう大丈夫だ!」
子供は屋敷の中で行われていた事を思い出したのか、錯乱してしまった。
私は子供が安心するまで、抱きしめてやる事しか出来なかった…。
子供がある程度落ち着いた所で、私達は移動する事にした。
この場所は屋敷から近く、屋敷の異変や帰って来ない町長を心配して誰か来るに違いない。
出来るだけ早くこの場から離れて安全な場所を確保し、そこでルトルト達に数日隠れていて貰わなくてはならない。
私は人となるべく合わない場所を選びながら、皆を連れて町の方角へと移動し続けて行った。
その際、ルトルトと救出作戦について色々話していると、私が抱えている子供が話しかけて来た。
「にーちゃん、町には門を通らなくても入れるよ」
「そうなのか?」
「うん、おいらたちしか知らない秘密の抜け穴があるんだ。それと、おいらたちの住まいなら隠れていられるよ」
「それが本当なら助かるが…」
「大丈夫、おいらたちが外に出ている時に捕まったから、そこは知られてないよ」
「分かった、そこに案内してくれ」
「うん、分かったよ」
町の近くの草むらの中にルトルト達に隠れて待って貰い、私とミュリエルと子供の三人で、抜け穴と住まいの安全を確認しに行く事にした。
「にーちゃん、ここから入るんだよ」
子供が案内してくれた場所は、町から流れ出て来ている川だった。
下水として流れて来ているのか、川の水は少し濁っていた。
川は町を囲む壁に沈み込むように消えていて、とても中に入れるとは思えなかった。
「少し潜るけど、すぐに出られるから安心してね」
「分かった」
子供は躊躇なく壁の中へと消えている川へと潜り、私とミュリエルも子供に続いて川の中に潜って行った。
すると子供の言う通り、すぐに呼吸できる場所へと辿り着く事が出来た。
これなら、泳げない人でも問題無く中に入れるな。
だが、呼吸できる場所は暗かったが、先の方に明かりが見える。
子供は明かりが見える方に水の中を進んで行き、私とミュリエルもその後に続いて行った。
「ここから上がれるよ」
私達は川から上がると、そこには壊れかけた廃屋が目の前にあり、そこが子供達が住んでいた場所だと教えてくれた。
廃屋の中に入ると、子供達の寝床として使われていた形跡や、女将さんが集めて渡した古着なんかも置いてあった。
改めて、子供達を救えなかった無念さを感じてしまったが、今は感傷に浸っている時間は無い。
「ここを使わせて貰ってもいいんだな?」
「うん、いいよ。誰も居ないしね…」
「……すまない」
子供は主のいなくなった寝床を寂しく見ながら、使わせてくれる事を許可してくれた…。
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