第三十五話 子供達の救出 その五

 周りを見渡すも、生き残っている人達はもういないみたいだ…。

 ミュリエルを連れて、子供達が倒れている所に近づいて行ってみた…。


「………」

 私は変わり果てた姿になった子供達を見て、助けてあげられなかった悔しさに押しつぶされそうになる。

 ミュリエルは声を抑えて泣いている…。

 私は子供達の前に跪き、手を合わせて目を瞑り、この子達の来世が幸せに恵まれていますようにと、心の底から神様に願った…。


「レフィー!この子まだ息がある!」

「えっ!?」

 ミュリエルから声がかかり目を開けて立ち上がると、ミュリエルが壁際近くで倒れている子供の所から私を呼んでいた。

 私は急いでその場に言って確認すると、大怪我をしているがまだ息をしていた!

 荷物は外に置いて来たので、この場で治療してやることは出来ない。


「ミュール、すまないが子供を抱き上げてくれないか?」

「うん、分かった!」

 私はミュリエルのハルバードを受け取り、ミュリエルに子供を抱き上げてもらった。

 他にも生き残っている子供がいないかと一人ずつ確認して回ったが、その子以外が皆亡くなっていた…。

 全員を外に運んで埋めてあげたいが、まずは生き残っている子供の治療が先だ。

 それに、まだ敵が残っているかもしれないので、私の手まで塞ぐようなことは出来ない。

 子供を抱いたミュリエルを連れて、地下から出て行く事にした。

 地下から一階に上がると、そこには先ほど話した長い白髪の髭を生やしたドワーフに加えて、他の奴隷達も集まっていた。


「おぬし、もしかしてランドニー様を倒したのか?」

「そうだ、他に誰かこの屋敷の中にいたりするか?」

「いいや、わしらだけじゃ。わしらはお主らに何もせぬから、殺さないでくれ!」

「心配せずとも危害を加えるつもりは全くない。それより、この子を治療できる者はいないか?」

「少し待ってろ」

 魔法で治療してもらえれば一番いいが、いなければ外に置いてきた荷物の中にある薬草を使って治療するしかない。

 薬草で治療できるのはせいぜい止血くらいで、根本的な治療には至らない。

 最悪、治療しても子供が死んでしまう可能性もある。

 駄目元でお願いしてみたが、長い白髪の髭を生やしたドワーフが集まっていた奴隷達に聞いてくれた。

 しばらくして、長い白髪の髭を生やしたドワーフが真剣な表情をしながら話しかけて来た。


「治療はしてやれるが、条件がある」

「分かった、俺に出来る事なら何でもしてやるから急いで治療してくれ!」

「今の言葉、忘れるなよ!」

 条件はまだ聞いてないが、子供の治療が先だ!

 奴隷の中から頭に角が二つ生えた魔族の女性が、ミュリエルの抱えている子供の前へと出てきて子供の上に手をかざした。

 魔族の女性の手が青白く光り、その光が徐々に子供を包み込んでいった。

 光が収まると魔族の女性は下がって行き、私は子供の様子を確認した。


「呼吸が安定したみたい」

「よかった…」

 子供のかぼそかった呼吸は元に戻り、血色も良くなったのかのように見える。


「治療してくれて本当にありがとう!」

 私は治療してくれた魔族の女性の前に行って、頭を下げて感謝を伝えた。

 言葉は通じないだろうけれど、こう言うのは伝えるという気持ちが大切だ。

 しかし、ゆっくりお礼を伝えている時間もない。

 私は長い白髪の髭を生やしたドワーフの方へと向き直り、治療の対価としての条件を聞くことにした。


「条件は、わしらをここから出して欲しいと言う事だ」

「分かった、逃げ出す準備として、寝具、着替え、あれば水筒と食料を用意してくれ。後、大きめの布があれば何枚か欲しい」

「布は用意しよう」

 子供の命を助けてもらった恩を返すためにも、奴隷達を助けてやらなくてはならない。

 しかしその前に、私にはやらなくてはならない事がある。


「ミュールは、ここで子供を守っていてくれ」

「うん、分かった」

 私は用意してもらった布を持って地下へと戻り、助けられなかった子供達を一人ずつ布で丁寧に包み込んであげた。

 その子供達を一人ずつ、地下からミュリエルの所まで運んだ。

 子供達を運び終えた頃に、奴隷達が近くに集まっていた。

 長い白髪の髭を生やしたドワーフが私の前に来て、準備が出来たと知らせてくれた。


「すまないが、この子達を外に運び出すのを手伝ってくれないか?」

「分かった、運び出してやろう」

「助かる」

 奴隷達に手伝ってもらい、子供達を全員屋敷から連れ出してやる事が出来た。

 私は外に隠しておいた荷物を回収し、奴隷達を連れてこの場から逃げ出した。


「この子供達はどうするのだ?」

「良い場所があれば、そこに埋葬してやるつもりだ」

「分かった」

 私達は道から外れ、近くにあった林の中に穴を掘って子供達を埋葬した。

 埋葬にあたっては奴隷達も手伝ってくれたので、意外と早く終える事が出来た。

 私は埋葬地の上に墓石代わりの石を置き、手を合わせて子供達に助けてやれなかったことを謝罪した…。


 もっと私は早く気づいていれば、全員助け出す事が出来たに違いない。

 本当に、本当に申し訳ない…。

 私は時間の許す限り、何度も何度も子供達に謝り続けた…。

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