第三十四話 子供達の救出 その四
「ほらほらどうした!」
間合いを詰めた事で魔法は撃たれなくなったが、相手の攻撃が激しくて防戦一方となってしまった。
だが今はそれでいい。
相手をじっくりと観察し、戦い方の癖や能力を見極めなければ。
「レフィー!」
「一人で大丈夫だ!」
「ほう、余裕だな」
ミュリエルが戦闘に参加しようとしたが、私はミュリエルが前に出ないように指示を出した。
ミュリエルがいてくれた方が楽だが、ミュリエルが怪我をする可能性が非常に高いし、ミュリエルの重くて速い攻撃でもこの男には通じないだろう。
「お前を倒した後で、女の方はじっくり楽しませてもらうとしよう」
相手の男はニタッとした嫌らしい表情を浮かべ、私の背後にいるミュリエルを見て嗤っていた。
ミュリエルはその表情を見て小さく悲鳴を上げ、少し後ろに下がったみたいだ。
ミュリエルに恐怖を与えた事は許せないが、ミュリエルが下がってくれたので戦いやすくはなった。
「せいっ!」
「あまい!」
相手の視線がミュリエルに行った隙に攻撃を仕掛けたが、大きな鉈で受けられてしまった。
私の攻撃は簡単に通りそうにはないな…。
焦らず、そして確実に倒す方法を探さなければ倒すことは出来ない。
「何かを狙っているようだが、それまでお前が立っていられるかな?」
相手の攻撃が増し、防戦一方の私の体が徐々に傷つけられていく。
だが焦る必要はない。
腕や足を切り飛ばされないように注意していれば、多少切られても私の動きが止まる事は無い。
そして徐々に、相手の癖が見えて来た。
大きな鉈と言う戦いには不向きな武器を使っているせいで、振り下ろした後の戻しや切り返しの時に余計な力が必要になり、無理をしているように見える。
左右に揺さぶりを掛けられれば良かったが、テーブルと床の血が邪魔をしていてそれは出来ない。
ならば槍で攻撃するふりをして、余計な力をより多く使わせてやろう。
「そんな弱い攻撃で私を傷つけられると思うな!」
「それはどうかな?」
相手の言う通り、私の攻撃は一切当たってはいない。
それと攻撃に転じた事で、より私の体が斬られて行っている。
「そろそろ楽にしてやろう!」
相手が半歩前に踏み出し、さらに攻撃を激しくしてきた。
私は必死に防御するも、斬られる傷が深くなる。
しかし、相手に焦る要素は何もないのに前に踏み出してきたと言う事は、決着を早くつけたいという意思表示でもある。
大きな鉈で戦うには無理がある事を、相手もよく分かっているのだろう。
それと相手の能力だが、ここまで使っているような感じはない。
恐らく、戦闘に向かない能力なのだろう。
だが、能力を隠している場合もあるし、油断するべきではない。
「なぜ倒れぬ!」
「倒れるような傷は負ってないからな!」
「やせ我慢しおって、死ね!」
相手は相当焦って、いいや、疲れて来たのだろう。
そもそも、無残に殺された人達を一人でやったのだとしたら、抵抗されなかったとしても相当に体力を使うはずだ。
その疲れが私との戦いで、一気に押し寄せてきた結果になったのだ。
息遣いは荒くはなっていないように見せているが、額から流れ落ちる血の混じった赤い汗の量が増えている。
そして、その疲れを表すかのような、やや大振り気味で精彩を欠いた一撃が振るわれてきた。
躱すことは可能だが、私は一歩前に踏み出して体で受け止めた。
激しい痛みと共に、私の左わき腹からお腹の真ん中ほどまで深々と突き刺さっていた!
相手はにやりと嗤い、勝利を確信した笑みを浮かべていた。
普通は致命傷だが、私には呪われた能力があるので倒れたりはしない。
「勝負あったな!」
「っ!それはどうかな?」
私は左手で、左わき腹に刺さった大きめの鉈を自分の体に抑え込んで動かないように固定し、右手に持った槍で相手の心臓を突き刺した!
相手は、なぜ私が動けるのか理解できない表情を一瞬見せたのち、苦悶の表情へと変わりながら後ろに倒れて行った。
止めとして、倒れた相手の喉にも槍を突き刺した。
私と同じ不死でもない限り、生き返って来る事は無いだろう。
「レフィー!」
ミュリエルが駆け寄って来たかと思うと、後ろから私を抱きしめて来た。
ミュリエルの体は震えていた…。
この見るに堪えない凄惨な場所にいる事は、私の想像以上に恐ろしい事だろう。
「ミュール、すまないが、私に刺さった武器を抜いてくれないか?」
「う、うん…でも、大丈夫?」
「大丈夫だ!」
ミュリエルが私の前に回りこんで大きめの鉈を両手で持った。
「行くよ!」
私は無言で頷き、歯を食いしばって痛みに耐える準備をした。
ミュリエルは一気に大きめの鉈を引き抜くと、刺さった時より強烈な痛みが襲い掛かって来た!
私は思わずその場に膝をつき、血があふれ出ているわき腹を両手で押さえた。
「ふぅ~」
私は大きく息を吐きながら、わき腹に意識を集中する。
何度も傷ついているうちに、不死の能力の使い方が分かって来た。
意識を傷に集中する事で、いち早く傷が治るのだ。
十回ほど呼吸をするうちに、出血だけは止まってくれた。
傷は大きかったので、完治するにはもう少し時間が必要だろう。
しかし、今は完治を待っている時間は無い。
私は立ち上がり、心配しているミュリエルを安心させてあげた。
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