第三十一話 子供達の救出 その一

「女将さん、大変お世話になりました」

「はぁ~、やっぱりそうなったかい…」

「えっ!?レフィー、辞めるの?」

 女将さんに挨拶に行くと、大きなため息を吐きながらも表情は明るかった。

 女将さんには子供達の事で色々相談したし、古着を集めて貰ったりもした。

 女将さんからすれば、私が子供達を助けに行く事は分かり切っていたのかも知れない。


「私には何もしてやれないが、やるからにはしっかり助け出すんだよ!」

「はい、勿論です。ミュール、すまないが時間が無い。説明は後でするから、出掛ける準備をするぞ」

「う、うん…」

「ミュリエル、あんたのことは自分の娘の様に思っていた。こんな別れになってしまったけれど、元気にやっていくんだよ!」

「うん、今までありがとう」

 ミュリエルは突然の別れに困惑気味だが、子供達を直ぐに助けに行かなくてはならないので細かく説明している時間が無い。

 ミュリエルをここに置いて行く事も考えたが、それはミュリエルが望まない事だろう。

 私はここには二度と戻って来れないので、ミュリエルを置いて行けば約束を果たせなくなってしまう。

 巻き込んでしまうミュリエルには大変申し訳なく思うが、付き合って貰うしかない。


 私はミュリエルを連れて部屋へと戻り、もう着る事は無いかも知れないと思っていた防具を着こんだ。

 ミュリエルにも防具をしっかり着用させ、着替えとかを急いで鞄に詰め込んだ。


「レフィー、あたいは準備出来た」

「俺も終わった。説明は道すがら話すから出掛けよう」

「うん」

 ミュリエルは私に聞きたい事がいっぱいあるだろうが、何も言わずに私の指示に従ってくれているので、後でミュリエルの納得のいくまで説明してあげようと思う。

 一階に下りて行くと、女将さんとルベルが待ち構えていて、女将さんは別れを惜しんでかミュリエルを抱きしめていた。


「元気でね!」

「うん、行って来ます」

「ほら食材だ、持って行け!」

「いいんですか?」

「あぁ、子供達に食わせてやってくれ」

「ありがとうございます!」

 ルベルは食材の詰まった鞄を渡してくれたので、感謝しながら受け取った。

 時間があればルベルが作ってくれたのだろうけれど、私の作った料理で我慢して貰うしかない。

 名残惜しいが、私はミュリエルの手を引いて、美女と美食の宿屋を出て行った。


「ミュリエル、急ぐぞ!」

「うん!」

 シャミール町を出て、街道を西に速足で急ぎながら、ミュリエルに事情を話した。


「そうだったんだ、あの子達が…」

 ミュリエルも子供達の事は当然知っているので、その子供達が捕まった事を聞いて辛そうな表情をしていた。


「今から助けに行くんだが、この国にはいられなくなる。

 折角いい働き場所が見つかってお金も安定して稼げていたのに、申し訳ない!」

「ううん、あたいはレフィーと一緒に居られればどこだっていい!

 レフィーに置いて行かれなかった事が嬉しいから気にしないで!」

「うん、ミュールとは約束したから、絶対に置いて行きはしない!」

 ミュリエルと繋いでいる手が、強く握りしめられた。

 私の選択は間違えていなかったと思い、一安心する。

 だが、ミュリエルを戦いの場には連れてはいけない。

 どうやって説得するかを、考え続けていた…。


 日が暮れた頃に、やっとそれらしい建物がある場所へとやって来た。

 外から建物の屋根は見えるが、高い壁に覆われていて屋敷自体を見る事が出来ない。

 正面にある門は金属製の様で武装した二人が警備していて、そこからも中の様子はうかがえない。

 屋敷の裏側に回ってみたが入り口は無く、壁の高さも五メートルほどありそうで上る事は不可能だ。

 正面近くの草むらに戻り、ミュリエルと相談する事にした。


「レフィー、どうするの?」

「正面から入るしかないな。ミュールはここに隠れていてくれ」

「嫌!あたいもレフィーについて行く!」

 思っていた通り、ミュリエルもついて来ると言って言う事を聞いてくれない。

 用意していた言葉で説得しようとした所で、屋敷の方から悲痛な叫び声が聞こえて来た!


「レフィー!」

「分かっている、良いか、絶対に俺の後ろから離れるなよ!」

「うん、分かってる!」

 ミュリエルを説得している時間は無い。

 草むらに荷物を隠し、弓矢と槍を手に持って戦う準備を整えた。

 ミュリエルもハルバードを手に持ち、私と一緒に戦うつもりの様だ。

 ミュリエルも魔物と十分に戦える技量は備わっているが、人との戦いは初めての事だ。

 私が全ての敵を倒せばいい事だが、何が起こるかは分からない。

 私はミュリエルを守る事を第一に考え、行動を開始した。

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