第二十二話 チェルコート王国から脱出

「本当に死なないのね~」

「レフィー!大丈夫!?」

「あぁ、大丈夫だ」

 その日の夜、周囲に誰もいないのを確認して、まだくすぶっているゴミ捨て場から出てみると、ミュリエルとシャリーが突然現れて来た。

 シャリーの能力によるものだろうが、生きて出てきた事が誰かに知られたかと一瞬焦ってしまった。

 しかし、今回は本当に酷かった…。

 やってもいない罪を着せられ、町の広場で罵声を浴びながら処刑され、挙句の果てにゴミと一緒に燃やされると言う度し難い罰を受けた。

 私には不死と言う呪われた能力があるが、それは単に死なないだけであって、心臓を突き刺されれば激しい痛みを伴うし、生きたまま燃やされれば、想像しがたい熱さと痛みを体感し続ける事になる。

 一刻も早く抜け出したかったが他の人に見つかってはいけないので、夜になるまで地獄のような時を過ごすことになった。

 さらに燃やされていれば、どうしても妹ステイリーの事を思い出してしまう…。

 あの時ステイリーと一緒に死ねれば、こんな苦しみを味わう事にはならなかった。

 これほどの罰を受けなければならないほど、私は罪を犯したというのか!?


 確かに、与えられた命を自ら断つのは大きな罪だろう。

 だが…私と同じ境遇にあえば、誰でも自ら命を絶つ選択を選ぶはず。

 そんな境遇に七回連続で…残りの五回は記憶にないが、そういう境遇にあわないようにしてくれるのが神様ではないのか?

 私がそう訴えた所で、神様の罰が変わるはずもない…。

 嘆いていても仕方がないし、今はイズストル町から出て行く事を優先しなくてはならない。


「シャリーさん、俺の体をじっと見て、どうしました?」

「い、いいえ~、黒くはなっているけれど、焼け焦げた跡も治っていると驚いていたのよ~」

「レフィー、これを着て!」

「ミュール、ありがとう」

 自分の体を確認してみると、墨で真っ黒に汚れてはいたが、もう焼けた後も奇麗に治っていた。

 ただし、着ていた服は全部燃えてしまっていたので全裸だ。

 シャリーは視線を泳がせながらも、しっかりと私の下半身を見ていたな…。

 見られたところで恥ずかしくはないが、全裸で外は歩けない。

 ミュリエルが手渡してくれた外套を着たが、裸に外套一枚のみでは完全に変態ではないか!?

 しかし、悠長に着替えをしている時間は無い。

 さっさとこの場から離れなければ!


「レイフィース、あたくしと手を繋いでね~」

「汚れているが?」

「構わないわよ~、ミュリエルは反対側の手ね~」

 私とミュリエルは、言われた通りシャリーと手を繋いだ。


「能力を使うわね~」

 シャリーがそう言うと、ミュリエルの幼い顔が、ずいぶんと大人びた顔に変わって行った。


「変身する能力なのか?」

「そうよ~、大きさは変えられないけれど、周囲の風景の一部に変わる事も出来るのよ~」

「それで隠れられていたのか…」

 先ほど突然現れたのも、周囲の風景に変身していたからなのだろう。

 私の顔も変わっているのか、ミュリエルが微妙な表情をしていた。

 シャリーの能力のおかげで、裸に外套一枚の状態でも無事にイズストル町から出られる事が出来た。


「シャリーさん、ありがとう。何かお礼をさせてくれ」

「いいえ~、気にしなくていいわよ~」

「しかし、これだけの事をしてもらったのだから何かお礼がしたい。とは言え、俺のできる範囲でと言う事になる」

「そうね~、じゃぁ貸しにしておくわね~。あたくしが困っていた時に助けてくれると嬉しいわね~」

「分かった、この恩はいつか必ず返す!」

 シャリーは貸しにしてくれたが、実質的には無しと同じだろう。

 私はこれから、ミュリエルと共にチェルコート王国から出て行く。

 もう二度とこの国に戻って来る事は無いだろうし、シャリーとはこれで永遠の別れとなる可能性が高い。

 フォルガ村の墓参りに帰ってこれなくなったのは非常に辛いが、十年、二十年後には私の事を覚えている人もいなくなるだろうから、その時には必ず墓参りをしに帰ってこようと思う。


「レイフィースはこれからどうするのかしら~?」

「チェルコート王国から出て行くつもりだが、生憎地理には疎い。隣国に行くにはどちらに行けばいいのか、知っていれば教えてはもらえないだろうか?」

「そうね~。ここから一番近いのは北にあるバラルリーズ連邦国よね~。

 だけど、あまりいい噂は聞かないわね~。

 ちょっと遠いけれど、東に行けばダミアウィード国があるわね~。

 ただし、ダイアウィード国は弱者には生き辛い所よ~。

 チェルコート王国と隣接しているのはその二国だけで、どちらを選ぶかはレイフィース次第ね~」

「分かった、ミュールと相談してから決める事にする。

 では、またどこかで会う事を願っている」

「えぇ~、あたくしもそう願っているわよ~」

 シャリーと別れ、ミュリエルとまた旅を続ける事になった。


「ミュールは、どちらの国に行きたいか?」

「レフィーと一緒ならどこでもいい」

「そうか…なら、近い方にするか」

 長旅はミュリエルには厳しそうだし、バラルリーズ連邦国に行ってみる事にした。

 シャリーがいい噂を聞かないと言っていたが、今回の事より酷い事にはなる事は無いだろう…。

 そう願いながら、バラルリーズ連邦国を目指して、ミュリエルとの旅を続けて行った。

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