第二十話 ハンター殺し その二

 相手は四人、全員が銀一級のハンターで実力は折り紙付きだ。

 そして、相手の能力も分かっていない状況では、厳しい戦いになるのは目に見えている。

 私が勝つためには、相手の能力を使わせずに一気に倒すしかない!

 相手も同じ事を思っているだろう。

 対人戦と言うほどではないけれど、フォルガ村で戦い方は教わっている。

 お父さんは対人戦は得意では無かったので、私に槍の使い方を教えてくれたヴェスバードから教わっていた。


「基本は魔物との戦いと同じだが、対人戦において一番重要なのは相手の能力を知る事だ。

 相手に能力を使わせず倒す事が出来れば一番いいが、そんな事が出来るようになるにはもっと修練が必要だ」

 その時は対人戦なんて一生やらないだろうと思い、あまり真面目に訓練をしていなかったが、もっと真剣に教わっていればと今更後悔している。

 後悔しても遅いので、相手に能力を使わせる前に倒す事に集中する。


 私は暗闇にいたが、前に出て行った事で焚火の火に照らされて姿は見られている。

 まだ間合いは離れているので槍を地面に刺し、背中から弓を取り出して矢を放った!


「おっと危ない!夜だからと言って、矢に当たるほど俺は弱くはないぜ」

 当たらなかったからと気にする事は無く、次々と矢を放って行く!

 男は余裕で矢を避け、私との間合いを詰めて来た!

 他の三人はにやにやとした嫌な表情で腕を組み、私と男の戦いを見守っていた。

 負けるとは微塵も思っていないのだろう。

 それは、こちらにとっては好都合だ。

 男との間合いが詰まり、私は弓を捨てて地面に刺していた槍を手に持った。


「はっ!」

 私が槍を突き出すと、男はくるりと一回転して私の攻撃を避け、そのまま勢いを乗せた剣を私に振り下ろして来た。

 私は後ろに飛び下がりながら剣を避け、間合いを離した。

 それから何度か攻撃するもお互い当たらず、拮抗している状態だ。


「ゲイザーを倒せる能力を出さないと、俺には勝てないぜ」

「じゃぁ、今から見せてやるよ!」

 男が私の能力を見破り、残りの三人が仕留める感じなのだろうか?

 男の能力は、恐らく視覚強化ではないだろうか?

 私が暗闇を背にしているにもかかわらず、私の攻撃を軽々と避けている。

 予知なんて能力もあるらしいが、そんな稀有けうな能力を持っている者が人殺しなんてことはやらないだろう。

 でも、決めつけは良くないが、一度試してみる事にした。


 私は槍を突き出しながら突進し、男との位置を入れ替えた。

 私は三人の男を背にすることになり、背後から攻撃される危険が高まるが、恐らく攻撃してこないだろう。

 攻撃されたら不味いが、その時は不死の能力でどうとでもなるだろう。

 男は手を目に当て、光を遮る仕草をしていた。

 やはりそうか。

 焚火の光でも眩しく感じてしまうのだな。

 私はその隙を捕らえ、槍を男に投げつけた!


「か…はっ…」

 私の投げた槍は男の喉に突き刺さり、倒す事が出来た。

 初めて人を殺し、気分は最悪だ…。

 いいや、フォルガ村の住人を殺したのは私だし、今更いい人ぶる事もないな…。

 私の手は血で汚れているし、殺さなければミュリエルが殺されてしまう。

 私は気を引き締め、残る三人を倒すことにした。

 私が一人倒した事で三人から笑みが消え、殺意をむき出しにして私に仕掛けて来た!


 そこからは死闘の連続だった…。

 私は剣で斬られ、魔法で打ち抜かれながらも、一人、また一人と倒していった。

 肉を切らせて骨を断つならぬ、骨を断たせて命を絶つ、と言った感じだ…。

 それでも相手は銀一級のハンターで、三人倒すまでにかなりの時間が掛かってしまった。


「なぜ死なない!?」

「俺の能力は不死だ。御覧の通り心臓を貫かれたとしても死にはしない。俺と戦いを始めた時に、お前たちの死は確定していたんだよ!」

「くそが…」

 最後の一人が私の胸に剣を突き刺し、勝利を確信しているその隙に、私は腰から取り出したナイフで首を切り裂いてやった。

 不死なんて能力は、相手にしてみれば卑怯だと思われるだろうが、私にしてみれば呪われた能力以外の何物でもない。

 死ねない事が辛いなんて、考えた事もないだろう?

 私は死んでいく男達を少し羨ましく思いながら、ミュリエルの所に戻って行った…。


「レ、レフィー…大丈夫なの?」

「あぁ、気づいたとは思うが、俺の能力は不死だ。どんな状況になったとしても死ぬことはない。

 ただし、不老ではないので、普通に老いて行くし寿命が来れば死ぬことになる」

「そ、そうなんだ…」

 ミュリエルは、血まみれになった私の姿を見て非常に怯えている。

 無理もない。

 普通なら死んでもおかしくないほどの怪我を負っているのだからな。

 痛みはあるが、意識はしっかりとしている。

 受けた傷も、明日には完治している事だろう。


「立てるか?」

「無理…」

 ミュリエルは腰が抜けているのか、立てないでいた。

 私は血で汚れているが、一晩ミュリエルをここに置いておくことは出来ない。

 七体の死体が転がっていて、周囲には血臭が漂っている。

 魔物が匂いに釣られて来るのも時間の問題だろう。

 ミュリエルを血で汚してしまうが、そうも言ってられない。

 ミュリエルを抱きかかえ、急いで野宿をしていた場所に戻って行った。

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