第十九話 ハンター殺し その一

 翌日から、それとなく仲間殺しについてハンター達に聞いてみると、どうやら私が来てから起こっていると言う事が分かった。

 ギルド長が私を疑うのは、当然の事だろう。

 そこで私はお金に余裕があるので、雨季が開けるまで狩りに行かないことを決めた。

 するとどうだろう。

 ピタリと仲間殺しが止まってしまった。

 ますます、私が疑われる結果となってしまった。

 久々にハンターギルドに顔を出すと、ハンターたちから白い目を向けられる結果となった。

 そんな中、シャリーだけがいつも通り声を掛けてくれた。

 シャリーは四十過ぎのおばさんだったが、私を見かけると話しかけてくれていた。

 私は仲間に入れても良いとは思ったのだが、ミュリエルが反対したので仲間にはしていないが、良い人には違いない。


「あら~、久しぶりね~」

「シャリーさん、久しぶり」

「あら~、あたくしの事は呼び捨てで良いと言ったのに~。

 まぁ~、その事は今はどうでもいいわね~。

 大変な事になっているわね~」

「俺はやっていません!」

「あたくしは分かっているわ~。だけど、他の人達は疑っているわ~。悪い事は言わないから、他の町に行く事をお勧めするわ~」

「ご忠告ありがとう。だけど、ここで逃げれば、よりいっそう犯人だと疑われてしまう。だから俺は逃げない」

「そう~、気を付けてね~」

「うん、ありがとう」

 シャリーとは別れ、ゲイザーの情報を集める事にした。


「おっ、良い所にいた。ゲイザーが大量発生して困っていたんだ。倒しに行ってくれないか?」

「構わない」

 情報を集めていた所に、銀一級のハンターが来て情報を教えてくれた。

 私はその情報を元に、ゲイザーを狩りに行く事にした。


「今日はここで野宿をする」

「うん、まだあたいは歩けるけど?」

「いや、今回はゲイザーを狩りには行かないからな」

「?」

 野宿をするにはまだ日も高く、情報を貰った場所もかなり遠い。

 ミュリエルが不思議に思うのも当然だろう。

 野宿をする場所は小高い丘の上で、周りが良く見えるので魔物から不意を突かれる事は無いだろうし、丘の下を誰かが通ればすぐに分かるような場所だ。

 二日目もその場を動かずに様子を見ていると、二組のハンターが通って行った。

 一組は見かけたことが無いハンター達で、装備的に下級のハンターだと予想できる。

 もう一組は、私に情報をくれた銀一級のハンターだ。

 私がゲイザーを倒す予定の場所から、さらに奥に行った場所にいる魔物を狩りに行くのだろう。

 彼らがここを通るのは当然の事だ。


「ミュール、移動する」

「うん」

 銀一級のハンターたちが通過してから十分の時間を置き、私達も移動を開始した。

 夕方前には適当な場所で野宿の準備をし、夜に備えた…。


「ミュール、起きてくれ!」

「う~、眠たい…」

「駄目だ、起きろ!」

 可哀そうだが、ミュリエルの頬を叩いて無理やり目を覚まさせた。

 ミュリエルにも武器を持たせ、真っ暗な夜の中を移動し始めた。


「レフィー、こんな夜中に何処に行くの?」

「しー、耳を澄ませて音を聞いて見てくれ」

 足を止め、ミュリエルにも聞こえてくる音を聞かせた。


「誰かが戦ってる?」

「そうだ。絶対俺から離れず、大きな音も立てないようにしてくれ!」

 ミュリエルは口を閉ざして大きく頷いた。

 私も慎重に足を進め、音のする方向へと進んで行った。

 私とミュリエルが見た光景は、とても言葉では表しきれない様に悲惨な状況だった…。

 私は悲鳴を上げそうになっているミュリエルの口を抑え、その場から逃げ出そうとした。


「誰だ!出て来い!そのにいるのだろう!」

 音を出さないように気を付けてはいたが、戦いが終わって静けさを取り戻した夜の中では、私が踏み抜いて折れた木の音が響いていた。


「ミュール、ここにいて絶対動くな!」

 ミュリエルは首を横に振っていたが、足が震えてその場に座り込んでしまった。

 無理もない、悲惨な状況を見た後に、恐ろしい声を掛けられたのだからな。


「安心してくれ、俺は必ず生きて戻って来る」

「う、うん…」

「よし、いい子だ」

 ミュリエルの頭を撫で、ミュリエルをその場に残して、私だけ出て行く事にした。


「おや、誰かと思えば、ゲイザー狩りではないか」

「人を殺しておいて、随分と暢気なものだな」

「あぁ、これですか?もう少し手応えが欲しかった所だが、弱すぎて全然楽しめなかったぜ。

 だけど、ゲイザー狩りが相手なら、楽しめそうだ」

「俺を殺せば、仲間殺しを俺になすり付けられないぞ」

「いやいや、ゲイザー狩りが仲間を殺していた所に偶然通りかかり、俺達が倒したと言う事にすれば問題無いだろ?」

「その通りだが、お前達に俺を殺す事は出来ないぞ」

「それは良い!是非ともお前を殺して、後ろに隠れている姉ちゃんを楽しませて貰うぜ!」

 私は人を殺した事は一度も無かったが、殺さなければミュリエルが殺されてしまう事になるだろう。

 私は槍を握りしめ、銀一級のハンター達と戦う事になった。

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