第十一話 レイフィースとの旅

≪ミュリエル視点≫

 あたいとレイフィースは無事に解放され、レイフィースと一緒に旅をする事になった。

 旅は、両親に売られてから商人と一緒にやっていたけれど、馬車での移動だったし、野宿なんてした事はほとんど無かった。

 初めての危険な外で野宿する事になったのだけれど、レイフィースに抱き付いていれば寒くはないし、すっごく安心出来る。

 魔物に襲われて死ぬことになったとしても、レイフィースと一緒なら怖くはない。

 それに、レイフィースは強くて魔物になんて負けるはずもない。

 だからあたいは、危険な外での野宿も安心して過ごす事が出来る。

 だけど、一つだけ心配な事がある。

 それはレイフィースの事で、時々レイフィースは今にも死にそうなほど辛い表情をしている。

 想像は出来る。

 レイフィースは、住んでいたフォルガ村の事を思い出しているんだと思う。


 あたいがフォルガ村に行ったのはあれが初めてだったので、フォルガ村の事は何も知らない。

 しかも、入り口前で追い返されたから、中がどんな様子になっていたのかも分からない。

 分かっているのは、焼け焦げた匂いがしていたと言う事だけ。

 恐らく、疫病で亡くなった人を焼いた匂いだったんだと思う。

 疫病で亡くなった人は、他の人に病気をうつさないように火葬される事になっている。

 だから、レイフィースも亡くなった人を火葬したんだと思う。

 その中には、レイフィースの家族も含まれていたはず。

 あたいの家族は最低な人達だったけれど、優しいレイフィースの家族はきっと優しかったはず。

 そんな優しい家族の死を見届け、別れもゆっくり出来ないまま火葬しなければならなかったのは、とても辛い事だったと思う…。

 どんなにレイフィースが強いと言っても、心は誰でも傷つきやすいし、その傷もまだ癒えてもいないはず。

 あたいがその傷を癒してあげられれば良かったのだけれど、力が強いくらいしか特技がないあたいには、そんな事は出来る筈もない…。

 それでも、無い頭で必死に考えて、レイフィースの心の傷を癒す…ううん、少しでも忘れさせてあげられるように、努力をする事にした。


「レフィー、もう歩けない…。おんぶして!」

「おんぶって、見ての通り鞄を背をっているから出来ないぞ」

「じゃぁ抱っこして!」

「…仕方がないな」

「えへへ、ありがとう!」

 レイフィースは呆れた表情をしながらも、あたいを優しく抱き上げてくれた。

 あたいはレイフィースの首に腕を回し、レイフィースの顔にあたいの顔を出来るだけ近づける。

 すると、レイフィースは恥ずかしいのか顔を赤くするけれど、嫌がったりはしない。

 慣れない徒歩での旅で歩き疲れていたのは本当の事だけれど、あたいがレイフィースに甘える事で、フォルガ村の事を忘れさせようと考えた。

 あたいがレイフィースに嫌われるかもしれないけれど、レイフィースの辛そうにしている表情を見るよりかはいい。

 それに、あたいとレイフィースの間には約束があるから、あたいがどんなに嫌われたとしても、レイフィースは約束を破る様な事はしないと思う。


 他にも何かあたいに出来る事はないかと考えたけれど、やっぱりあれしかない…。

 あたいは家族から嫌われ売られた身だけれど、売られて行く程度には顔もいいし胸も大きい。

 レイフィースは、毎日のあたいの着替えをする時や体を拭いてくれる時も、あたいの裸を見たり触ったりしている。

 だけど、あたいはレイフィースに一度も襲われた事が無い。

 あたいに魅力が無いのかと落ち込んだこともあったけれど、レイフィースが我慢してくれているだけだと言う事には最近気づいていた。

 あたいを抱いてくれれば、レイフィースの心の傷を少しでも癒してあげられるんじゃないかと思って、勇気を振り絞って言ってみた。


「レ、レフィー!」

「何だ?」

「あ…あたいの事を…レフィーの好きにして…いい…よ」

 レイフィースは一瞬固まっていたけれど、次の瞬間大きなため息を吐きだして優しい目をしながら、あたいを真っすぐ見て答えてくれた。


「はぁ…いいか!俺はミュールと結婚すると約束した。それに嘘偽りは一切ない。

 俺が家を持ち、安定した仕事が出来るようになった時に、ミュールが俺の事を嫌いになっていなければ約束通り結婚する。

 その時まで、俺はミュールを抱こうとは思わないし、ミュールも我慢してくれ。

 それと、俺はその時まで他の女性も抱かないと約束しよう。

 それなら、ミュールが不安に思う事も無いだろう?」

「う、うん、分かった。もう言わない」

 レイフィースの傷ついた心を癒すために勇気を振り絞って言った言葉だけれど、逆にあたいの方が癒されてしまった…。

 レイフィースがあたいの事を、心から大切に想ってくれている事が分かったから…。

 思わず涙が出そうになったけれど、レイフィースを心配させないためにぐっと我慢をした。


「レフィー、あたいはレフィーの事を絶対嫌いになったりしない!」

「そうか、俺もミュールを嫌いになったりしないからな」

「うん、ありがとう!」

 レイフィースの心の傷を癒してあげる事はあたいには出来そうにないけれど、出来るだけ思い出させないように努力していこうと思った。

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