第二章 ハンター

第十二話 イズストル町

 ミュリエルが大きな怪我をすることなく、無事に町へとたどり着いた。

 町の門番に尋ねると、ここはイズストル町だと教えてもらった。


「レフィー、これからどうするの?」

「まずは収集してきた薬草を売ってお金にし、宿屋を見つけてゆっくりしようと思う」

「うん、分かった」

 色々やらなければならない事があるが、ミュリエルは慣れない旅で疲れているし、今日は宿屋に泊まってゆっくりしようと思う。

 薬草はあまり高い値段では買い取ってもらえなかったが、大銅貨四枚と中銅貨七枚になった。

 お金の価値は小銅貨十円、中銅貨百円、大銅貨千円くらいだと思うので、四千七百円の儲けとなる。

 かなり少ないように思えるが、物価が安いので意外とそうでもない。

 お金が手に入ったので、そのまま宿屋を探す事にした。


「一人部屋をお願いする」

「二人で使うのかい?」

「一緒に寝るので問題はい」

「そうかい、一泊大銅貨一枚で鍵は中銅貨二枚、明日の朝鍵を返せば、中銅貨二枚も返却するよ」

「分かった」

 私はお金を支払い、鍵を受け取った。


「部屋はそこの階段を上がって左に三つ行った所だよ。ただし、壁は薄いから、あんまり激しくやるんじゃないよ」

 やましい事をするつもりはないので、気にせずミュリエルを連れて二階の部屋へと向かっていった。


「レフィー、狭い…」

「そうだが、寝るだけだから問題ないだろう」

 鍵を開けて入った部屋は、ベッドが一個置いてあるだけで部屋が埋まってしまっていた。

 背中に背負った鞄を置けば、足の踏み場は無くなるほどだ。


「疲れたから俺は寝る。夕方には起こしてくれ」

「うん、あたいも寝る」

 ミュリエルとベッドに横たわると落ちそうなくらいだが、ミュリエルは私に抱き着いて来てもう寝息を立てているし、落ちる心配はない。

 私も野宿で寝不足気味だし、目を閉じればすぐに寝入ってしまった。


「レフィー、起きて!お腹空いた!」

「ん、もう夕方か…」

 ミュリエルに起こされたので目を覚ますと、ミュリエルの顔が目の前にあった。

 少し驚いたが、起こしてくれたお礼に頭を撫でてやると、目を細めて喜んでくれた。

 こういう所は、妹ステイリーにそっくりなんだよな…。

 だからどうしても、ミュリエルの事を妹として見てしまう。

 体を起こし、寝ぐせの付いたミュリエルの髪を整えてから、二人で夕食を食べに部屋から出て行った。


 食堂は宿屋の一階にあり、すでに多くの客でにぎわっていた。

 テーブル席は全部埋まっていたので、私とミュリエルはカウンターの席に並んで座った。


「ミュールは何を食べたい?」

「レフィーと同じでいい」

「そうか…」

 ミュリエルにそう言われて、私は困ってしまった…。

 壁にお品書きが書かれているのだが、私は文字を読む事が出来ない。

 フォルガ村での生活では文字の読み書きは不要だったし、教えてくれる人もいなかった。

 私は恥を忍んでミュリエルに読めるか聞いてみたが、ミュリエルも首を横に振るだけだった。

 仕方がないので、カウンターの向こうで料理をしている兄さんに適当に注文する事にした。


「すまない、安くて量の多い料理を二人分頼む」

「おうよ!飲み物はどうする?」

「酒ではないのを二杯頼む」

「ちょっと待ってな!」

 しばらく待っていると、大きなお皿一枚に山盛りになった料理と木のジョッキに入った飲み物が、私達の前にドンと置かれた。


「肉と野菜の炒め物とムームジュースだ。併せて中銅貨三枚と小銅貨六枚だ」

 私はお金を兄さんに支払い、料理を食べる事にした。


「レフィー、食べさせて」

「駄目だ、それは二人だけの時だけと決めただろう」

「…分かった」

 ミュリエルは私が食べさせないと言うと、少しだけ不機嫌になりながらも料理を食べ始めた。

 しかし、中銅貨三枚(三百円)の食事とは思えない量だ。

 肉は少なめの野菜炒めだが、二人で食べきれないと思うほどに盛られている。

 旅の間は肉が多めで野菜が少なかったので、ちょうどいいのかもしれない。

 それに、ミュリエルは小柄だが食べる量は私より多い。

 それには理由があって、ミュリエルの能力が関係している。

 ミュリエルの能力は身体強化で、力を出すためには栄養が必要となる。

 だから、普通の人より多めに食事を摂らないと体がもたない。

 ミュリエルが病気で苦しんでいた時は、本当に危険な状態だったのだ。

 ただでさえ栄養が必要なのに、高熱で食べられない時期が続いていたので、あと一日、いや、数時間私があの場に行くのが遅れていたら、ミュリエルは亡くなっていたかもしれない。

 だから、ミュリエルには一杯食べてもらわなくてはならない。


「レフィーは食べないの?」

「俺はあまりお腹が空いていないからな、ミュールが食べきれなかった分を食べるよ」

「…うん、分かった」

 ミュリエルは私を気遣って多めに残そうとしていたが、遠慮せずにミュリエルには食べてもらった。

 実際、旅の間は私もお腹いっぱいになるまで食べていたので、今日一日食べなかったところで何ともない。

 ミュリエルがお腹を空かせて倒れられる方が、私にとって大問題だからな。


「お湯をもらえないか?」

「桶一杯のお湯が小銅貨三枚で、桶代が小銅貨二枚。桶を返せば小銅貨二枚も返してやる」

 食後にお湯を貰い、部屋に戻ってミュリエルと私の体をお湯につけた布で拭いて、体を奇麗にした。

 旅の途中でも体は拭いていたが、川がある所でしか拭けなかったからな。

 さっぱりした所で、ミュリエルと一緒にベッドに転がって寝る事にした。

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