第十話 ミュリエルとの旅 その二
「ミュール、絶対俺の後ろから離れるなよ!」
「うん、分かった!」
ミュリエルを守りながら戦うのは厳しいが、一緒に旅を続けている以上は命をかけてでもミュリエルを守り切らなければならない。
でも、私は神様から不死と言う呪いを受けているから、魔物に嚙まれようが引き裂かれようが死ぬことはないのだろう。
だけど、そうなってしまえば、ミュリエルに危険が及ぶことになる。
だから慎重に、魔物と対峙して倒した。
「レフィー、大丈夫?」
「うん、かすり傷だし、すぐに治るから」
槍を使って襲い掛かって来た魔物を倒したのはいいけれど、槍を突き出した際に、右手を爪で引っかかれて傷を負ってしまった。
ミュリエルが心配そうに見てくれている間にも、傷は治っていってしまった。
「本当だ、それがレフィーの能力?」
「うん、大きな怪我をしても一日もすれば完治するし、病気になった事は一度もない」
「それで…あっ、ごめん」
「いや、いいんだ。この能力のおかげで生き残る事が出来たのは間違いない」
ミュリエルには旅の道中に、私の事を色々話して来た。
当然、疫病で家族を含むフォルガ村の住人が亡くなった事も伝えてある。
今でも、家族やフォルガ村の住人の事を思い出すたびに泣きそうになるが、ミュリエルの前で泣くことは出来ない。
ミュリエルも家族から捨てられ、どこの誰とも知らない男の所に売られて行きそうになっていたんだ。
私だけ不幸だという事は無いんだ。
「あたいの能力は、力が強いだけなんだ…」
「そうか、それはいい能力だな」
「えっ!?そうなの?」
「あぁ、身体能力を強化する能力は一般的だが、使い勝手が一番いいとされている。
フォルガ村にも身体能力を強化する能力者はいて、その人はその力で巨大な戦斧を振るい魔物を一撃で倒していた。
それに、その力で自身の体が壊れないように体も強化されるから、防御力も高いんじゃないかな?」
「う、うん、そうなんだけれど…レフィーは力の強い女の子は嫌い?」
「いいや、そんな事は無い。人はそれぞれ違う能力を持っているけれど、俺は能力によって好き嫌いを分けるような事はしない」
「そっか、良かった」
私の答えに、ミュリエルはほっと一息ついて安心していた。
女の子が強い力を持っていれば、男の子には嫌われてしまうかもしれない。
それは相手が子供だからであって、大人になれば能力の違いで好き嫌いを決めたりはしないだろう。
だけど、ミュリエルにしてみれば、男の子から嫌われていたから私にも嫌われるとか思ったりしていたのだろう。
だから今まで、能力の事は話さなかったんだな。
それと、何故魔物に襲われたかと言うと、お金を稼ぐために街道から離れて森の中に入ったからだ。
村に寄った際にミュリエルの着替えを買ったのだけれど、防具まで買うお金が足りなかった。
仕方なく、次の町に向かう間に森に入り、売れそうな薬草を集める事にした。
薬草は乾燥させながら持ち運べるし、かさばるけれど重くはない。
魔物の皮もお金になるが、
だから残念だけれど、魔物を倒しても食べる分の肉だけを切り取り、後は泣く泣く捨てていくしかなかった。
町が近ければ持って行けるのだが、次の町までは五、六日かかると手前の村で教えられた。
「ミュール、今日はここで野宿をしよう」
「うん、かまどの準備をする」
ミュリエルも野宿する事に慣れて来ていて、簡単な事なら手伝ってくれるようになっていた。
俺は近くから枯れ木を集めて来て、ミュリエルが作ってくれた簡単なかまどに枯れ木を入れて、火打石を使って火を点けた。
かまどの上に鍋を乗せ、水筒から水を入れて沸くのを待つ。
待っている間に、魔物の肉と野草を食べやすい大きさに切り分けておく。
沸騰してから肉を投入し、塩と香草を入れて味付けをし、食べる少し前に野草を入れて完成だ。
「熱いから気をつけて食べろよ」
「食べさせて!」
「またかよ…仕方ないな…」
ミュリエルは食事時、よく私に食べさせてくれと甘えてくる。
私としても、妹ステイリーのお世話をしている気がして、つい甘やかしてしまう。
ミュリエルはステイリーとは見た目も性格も全く違うのだけれど、ステイリーの幼い頃は私が同じように食べさせてあげていたことを思い出し、懐かしく思うのだ…。
「もうお腹いっぱい」
「そうか、後片付けをして寝るとしよう」
「うん!」
地面に布を敷き、その上に私が座るとミュリエルは私に抱き着いてくる。
抱き着いてきたミュリエルの上から厚手の布をかけてやると、ミュリエルはすぐに寝てしまった。
ミュリエルは寝る時、いつもこの体勢だ。
最初は一人で寝るように言ったのだけれど、ミュリエルは頑なに一人で寝る事を拒んだ。
何もない外での野宿では危険が多いし、誰かに抱き着いていた方が安心して眠れるのは理解できる。
だけど、私の睡眠不足が考慮されていないのはどうかと思う。
どのみち魔物にの警戒しなくてはならないし、熟睡は出来ないのだけれどな。
私としても、ミュリエルを抱きしめていれば温かくて柔らかいし、悪い気はしないのだけれどな…。
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