第九話 ミュリエルとの旅 その一
ミュリエルと二人で町を目指して旅を始めたのは良いが、ミュリエルの事を何も知らないので、歩きながら聞いてみる事にした。
「ミュリエルは、お店に帰らなくていいのか?」
「えっ!?お、お店って…」
ミュリエルはお店と聞いて、かなり動揺していた。
ミュリエルは商人と一緒にフォルガ村を訪れたと、聞いたと思うのだが…。
「いや、商人と一緒にフォルガ村に来たと言っていたから…」
「あっ、そっち……あたい…わたしはあの商人の商品だったのです…」
「えっ、商品って、どういう意味?」
「そのままの意味です…あたい…わたしは、親から商人に売られて、商人がお金持ちに売るために連れまわしていたのです」
「それは…この国では許される事なのか?」
「…」
ミュリエルは首を横に振り、ゆっくりと私に説明してくれた。
私の住むチェルコート王国では、人族の人身売買は禁止されているらしい。
それなのにミュリエルが人身売買まがいの扱いを受けていたのは、結婚を斡旋するためだったそうだ。
商人はミュリエルを紹介し、その仲介料としてお金を受け取るらしい。
私には完全に人身売買だと思うが、結婚斡旋として許されているらしい。
「ミュリエルは帰る所が無いのか?」
「…うん」
「俺と一緒だな…約束通り、俺が仕事を見つけて家を建てた時に、ミュリエルが俺の事を嫌いになっていなければ、責任を取って結婚してやるからな」
「うん…うん…」
ミュリエルは泣き出してしまった。
私は立ち止まり、両膝をついてミュリエルと視線を合わせ、ミュリエルの涙をぬぐってあげた。
そこで私は初めて、ミュリエルを初めてミュリエルとして見たんだと思う。
ミュリエルの身長は百五十センチくらいで、私が百八十センチくらいあるから、ずっと子供だと思っていた。
ミュリエルは小柄ではあるが胸は意外と大きい。
その事は、裸を見ていたのでよく知っていた。
やや赤みを帯びた髪は肩まで伸びていて、昨日私が時間をかけて濡れた布で丁寧に拭いたので、日の光を反射してキラキラと輝いていて美しい。
切れ長の目はやや吊り上がっているものの、まだ幼さを残した可愛らしい顔立ちをしている。
ミュリエルには悪いが、ミュリエルを買いたいと思う男は大勢いた事だろう。
私がお金持ちで、ミュリエルを目の前に連れて来られたら、間違いなく買っていただろう…。
いやいや、そんな失礼な考えは止そう。
私は泣き続けるミュリエルの頭を撫でていたら、ミュリエルから話しかけて来た。
「レイフィース…あたい…わたしの事を嫌いにならないで…」
「うん、嫌いになったりしない」
「…本当に?」
「うん、俺からミュリエルの事を嫌いにならないと約束するよ!」
「………」
ミュリエルは安心したのか、やっと泣き止んでくれた。
ミュリエルは深呼吸をしてから、私の目をまっすぐ見て来た。
「レイフィースって呼びにくいから、レフィーって呼んでいい?」
「う、うん…ミュリエルの好きに呼んでいい」
「分かった、レフィー、あたいの事も好きに呼んでいいからね!」
「そうだな…ミュールでいいか?」
「うん、レフィー、これからよろしく!」
「ミュール、よろしく」
ミュリエルが手を出して来たので、私はミュリエルと握手をした。
その事は良いのだが、ミュリエルの話し方が急に変わったな…。
よく考えれば当然のことだな。
見ず知らずの男の人に、いきなり馴れ馴れしく話しかけるのも変な事だと思う。
ミュリエルが地を出してくれたってことは、私の事を少しは信頼してくれたってことだろう。
「歩けるか?」
「うん」
ミュリエルの手を引っ張って立たせ、そのままミュリエルと手を繋いで歩き始めた。
先ほどまで泣いていたミュリエルはご機嫌になり、鼻歌まで歌っているくらいだ。
ミュリエルがご機嫌になった内に、色々聞いておこうと思う。
「ミュールは魔物と戦った事があるか?」
「ない」
「そうか、この先魔物が出てきた際には、俺の後ろから絶対離れないようにしてくれ」
「うん、分かった。でも、戦い方を教えてくれれば、あたいも戦う!」
「そうだな、少しずつ教えて行ってやろう」
ミュリエルは女の子だから、魔物と戦ったことが無いのは当然だろう。
だけど、旅を続けていれば魔物に遭遇するし、ミュリエルも自分の身を守れるくらいには戦えるようになって貰わなくてはならない。
勿論、私は全力でミュリエルを守るけれど、魔物の数が多ければ守り切れないかも知れない。
その為に、自営の手段は教えておくべきだろう。
でもそれは、ミュリエルの身を守る防具を買いそろえてからだな。
そもそもミュリエルは、替えの着替えすら持っていないのだ。
村か町に寄った際には、着替えを優先して買ってあげなくてはならない。
手持ちが少ないが、ミュリエルの身を守るためには、何とかして防具も買いそろえてやらなくてはならない。
旅をしながら、お金になりそうな薬草か魔物の皮なんかを、集めて行こうと思う。
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