第八話 ミュリエルの策略

≪ミュリエル視点≫

 やっぱり、色仕掛けしか無い。

 幸いな事に、あたいの胸は大きいので、黙っていればこの胸に魅かれてくれるはず。

 だけど…この男の人はあたいの裸を全て見ただけではなく、体の至る所に触って汗を拭いてくれている。

 それなのに、あたいが未だに襲われないと言う事は、あたいの体に魅力が無いって事だと思う…。

 色仕掛けは無理だ…。

 気に食わないが、行商人の親父が言ってた通り、お淑やかな女性を演じてみるしかない。

 あたいに出来るだろうか?

 ううん、出来なければこの男の人に捨てられてしまう、

 やるしかないんだ!

 あたいは頭の中で、行商人の親父に言われた事を思い出していた。


「俺の名はレイフィース、フォルガ村の出身で村が疫病に襲われ全滅し、一人だけ生き残った者でここに入れられた」

 ついに男の人が、あたいに話しかけて来た!

 レイフィース!男の人の名前はレイフィース!

 忘れない様に覚えなくては!

 ううん、そんな事より早く返事をしないと嫌われてしまう!


「あたい…わたしの名はミュリエル…です。わたしも…フォルガ村に商人の付き添いで行ったことで病気になり…ここに入れられました…」

 いきなり間違えそうになったけれど、何とか最後までお淑やかな女性みたいに言えたと思う。

 決して声を大きく発したりはせず、レイフィースに聞こえるくらいの声で話すよう心掛けないといけない。

 レイフィースと話をし、やっぱりあたいは死なないのだと教えて貰った。

 もっとレイフィースと話したかったけれど、恥ずかし過ぎて顔をまともに見れなかった。

 それに、長く話していると自が出そうな心配もあった。

 短い間なら演技も出来るし、これからも長く話すのはよそうと思う。


 それから毎日、レイフィースとは短い時間だけ話すように心がけた。

 それと、もしかすると襲い掛かって来てくれるかと思い、今までの様に何でもレイフィースにやって貰った。

 だけど、あたいに魅力が無いのか、レイフィースは襲い掛かって来てはくれない。

 あたいは女として、かなり自信を無くしてしまった…。


 そして、運命の時が訪れてしまった。

 レイフィースは明日、ここを出て行くのだと言う。

 どうしよう…どうすれば、レイフィースを捕まえておける?

 分からない、分からない、分からない…。

 色仕掛けは駄目だったし、お淑やかに話しても効果はあまり見られなかった。

 もうあたいに出来る事は何も無い…。

 レイフィースと別れてしまえば、もう二度とあたいに優しくしてくれる男には出会えないだろう。

 ここから出られたとしても、あたい一人では生きる希望も何も無い。

 あのまま病気で死んでいれば、こんなに思い悩む事は無かったのに…。

 レイフィースと別れるのであれば、死んだほうがましだった…。

 …。

 ううん、諦めては駄目だ。


「暗くなって来たし、そろそろ寝ようか?」

 そう、レイフィースが私を襲って寝ていてくれていれば、責任を取らせてずっと一緒に居られたのに!

 責任…。

 !?

 あたいの裸を見た責任を取らせればいい!

 何なら、今から裸になってもう一度見せてもいい!

 とにかく、レイフィースに責任を取って貰って、一緒に居てくれると約束して貰うしかない!

 あたいは必死になって、レイフィースに訴えかけた!


「分かった、責任はとる…」

「ほ、本当に?」

「本当だ、しかし、俺は家も仕事もお金もない。仕事を持ち、家を建てた後でなら責任を取ってやる。

 それでもいいなら、ミュリエルの好きにしたらいい」

「うん…わかった…」

 やった!!!

 レイフィースが責任を取ってくれると約束してくれた!

 あたいは嬉しくなって、横に寝たレイフィースに抱き付き、朝までそのままの状態で一夜を過ごした。



≪レイフィース視点≫

 私とミュリエルは、無事に隔離生活を終えて外に出して貰えた。


「コルチリ村に入る事は禁ずる!出来る事ならどこか遠くに行ってくれ!」

「分かった…」

 治ったとしても、疫病に侵された者を入れたくないと言う気持ちは良く分かる。

 私は指示に従い、コルチリ村から他の場所に続く道に歩みを進めようとした。


「責任…」

「うん、ミュリエルの事は忘れてはいないから、服を引っ張らないでくれるか?」

「うん、じゃぁ手を繋いで…」

「分かった、分かった」

 私はミュリエルと手を繋ぎ、二人で道を歩き始めた。


『一人目の命を無事に助けられたな。残り六人も助け出すのだぞ』

 その時、頭の中に神様の声が聞こえて来た!

 そうか…神様から罰として与えられた使命の事を、すっかり忘れていた。

 私はただ、病気で苦しんでいるミュリエルに妹ステイリーを重ねて見ていただけで、ただただ、助けてあげたいと思っただけだ。

 ミュリエルの事を思って助けたのでは無いのに、神様に悪い気がする…。

 でもこれで後六人の命を救えば、私は次も転生する事が出来る。

 その時は、今回の様に記憶は残されていないだろうけれど、不思議と使命を果たして転生しなければと思えて来る。

 今回はたまたまミュリエルの命を救う事が出来たが、次も上手く行くとは限らない。

 次はその人の事を思って、全力で助けようと神様に誓った。

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