第七話 ミュリエルの過去と夢
≪ミュリエル視点≫
あたいは、テンガル村にある小さな商店の次女として生まれ、才能あふれる姉マドエルの残りかすだと言われ続けて育った。
何をやっても優秀なマドエルは、常にあたいの事をいじめてきた。
あたいはマドエルとは違い、何をやっても失敗ばかり。
それに、あたいの能力はただ力が強いだけで、荷物を運ぶくらいしか商売の役には立たない。
文字の読み書きも出来なければ、計算もまともに出来ない。
料理も下手だし、洗濯も力任せに洗って服を破ってしまう。
両親も、そんなあたいを放置していた。
あたいが十三歳になった時に、両親が望んでいた長男が生まれた。
両親は長男を大層可愛がり、不要となったあたいを知り合いの行商人に売り払った。
行商人に売られたあたいは行商人と一緒に各地を転々とし、その先々で金持ちの所に連れていかれた。
あたいは商品で、金持ちが気に入れば買われていくだけだ。
あたいはそんなのや嫌だし、金持ち気に入られないように必死に振舞った。
その甲斐あって金持ちには買われなかったが、行商人の親父から言う事を聞かないあたいに対して暴力を振るわれるようになった。
だけど、あたいの能力は力が強くなるだけではなく、体も丈夫だったみたいだ。
行商人の親父が力づくで殴って来ても、対して痛くもないし血を流すことはなかった。
どちらかと言えば、あたいを殴った行商人の親父の方が腕を痛めていたくらいだ。
行商人の親父があたいを捨ててくれればよかったのだが、金を払って買った以上、捨てられはしなかった。
そんな時に、田舎の村に立ち寄った際、入り口の柵が閉じられていて入れなかった。
行商人の親父は異変が無いかと、あたいに様子を見てくるよう言いつけやがった。
あたいは仕方なく馬車から降り、入り口の柵の前まで行って声を掛けてみた。
「誰かいませんか!返事をしてください!」
しばらく待っていると、誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「近づくな!この村は疫病に侵されている!コルチリ村にもこの事を伝え、誰も近づかないように言ってくれ!」
「!?」
あたいは急いでその場を離れ、馬車へと駆け戻った。
「乗るな!お前は歩いてついてこい!」
大きな声だったから、行商人の親父にも聞こえたのだろう。
あたいは村に近づいたとして、馬車に乗ることを拒否された。
仕方なく馬車の後ろを歩いてついて行き、途中で一度野宿した際も離れて眠るよう言われた。
そして次の日、あたいは行商人の親父に捨てられ、小屋に閉じ込められてしまった。
行商人の親父に捨てられたのは良かったが、あたいは疫病で死んでしまうのだろうか?
まだあたいは元気だし、疫病には
火も無い寒い小屋で一晩過ごした所で、頭が少し重くなったような気がしてきた。
二日目には咳が出始め、体が重くなってきた。
三日目、ほとんど動けなくなってしまい、食事を食べる元気もなくなって来た…。
あたいはこのまま死んでしまうんだろうか?
そんなのは嫌だ…。
あたいはまだ誰とも付き合ったこともないし、恋すらしたこともなかった。
死ぬ前に一度でいいから、好きな人と一緒に過ごしてみたかった…。
その思いが通じたのかどうかは分からないが、気が付いた時には男の人が傍にいてくれた。
あぁ、これは夢なんだとすぐに分かった。
見ず知らずの男の人が、あたいなんかのお世話をしてくれるはずもない。
夢なら何をされても気にはならない。
体を奇麗に拭いてもらい、ご飯も食べさせてくれて、用の後始末もしてくれる。
恥ずかしいけれど、死ぬ前の夢なら何でも許される。
それが毎日続けば、さすがにあたいも夢ではないと気がついてしまった…。
だけど、今更騒ぎ立てた所で、あたいの恥ずかしい所を全て見られてしまった事には変わりない。
それならいっそのこと、死ぬまで甘えてしまえばあたいの願いは叶う。
そう思って、あたいは見知らぬ男に甘え続けて行く事にした…。
おかしい…。
おかしい、おかしい、おかしい!?
あたいは死ぬどころか、どんどん元気になっている気がする…。
ううん、間違いなく病気が治って行っている。
頭はすっきりして来たし、喉も最初の頃のように傷みは無いし咳もしなくなって来た。
あたいは病気で死ぬんじゃなかったの!?
どうしよう…。
見ず知らずの男の人に、何もかも見られてしまった…。
恥ずかしさで死んでしまいたくなる!
逃げられるのなら、あたいはここからすぐに逃げ出していただろう。
だけど、ここは柵に囲まれていて逃げ場など何処にも無い。
一度落ち着いて冷静に考えてみる…。
あたいは行商人の親父に捨てられたので、自由の身だ。
だけど、あたいは帰る家も無ければ頼れる人もいない。
いっその事、この男の人に貰われて行くのは良いかも知れない。
優しいし、あたいの望みを何でも叶えてくれる。
あたいは今まで、男の人に優しくされた事など一度も無かった。
父親もあたいに厳しかったし、近所の男の子達からは暴力女だと言われて嫌われていた。
だからこそ、優しくされて夢だと思ってしまったのだ。
うん、この男の人にあたいの全てを捧げよう!
だけど、あたいは男の人に好かれる様な女では無いのは自覚している。
この男の人も、ここから出たらあたいを置いて行ってしまうに違いない…。
どうすればいいのか?
しばらく悩み続ける事になった…。
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