第五話 隔離生活 その一
夕食と同時に、厚手の布を一枚貰う事が出来た。
今は春先で、夜は少し肌寒い時期だ。
健全な人ならこれで十分温まるが、病人には物足りない。
私はもう一枚用意してくれとお願いし、食事と厚手の布を持って家へと戻って行った。
「おい、食事が来たぞ」
「こほっ、こほっ」
やはり意識が無く返事もない。
だけど、水分だけでも摂らせてあげなくてはならない。
少女の体を起こし、木のコップに入れた水を口元に持っていくが飲んではくれない…。
仕方なく私は水を口に含み、口移しで少女に少しずつ少しずつ、何度も水を飲ませてあげた。
喉が潤った事で、咳が少し収まったみたいだ。
少女に厚手の布をかけてあげ、私は自分の分の食事を頂いた。
少女の分が余っているが、食事を食べる元気はなさそうなので庭に穴を掘って処分し、食器を井戸の水できれいに洗って外に放置した。
食事を捨てるのはもったいないが、食事に菌が付着してしまった可能性もあるのでそうせざるを得ない。
少女の元へと戻り様子を見ていたが、厚手の布をかけてあげたにもかかわらず、少女は寒さに震えていた。
…仕方がない。
私はこの少女を最初に見た時から、救ってあげたいと強く思っていた。
なぜなら、病気に苦しんでいる少女が、妹ステイリーと重なって見えたからだ。
ステイリーを助けてやる事が出来なかったから、この少女は何としても助けてやりたかった!
ただそれだけの思いで、私に出来うる手段の全てを行使する事にした。
私は服とズボンを脱ぎ棄て、下着一枚になって少女の横に寝転がり、少女を横に寝かせて背後から抱きしめてやった。
これで多少は温めてあげる事が出来るはずだ。
少女にしてみれば、見知らぬ男に裸で抱き着かれている状況は非常に恐ろしい事だと思うが、これは医療行為であって、決してやましい気持ちは一切ない!
元気になれば文句はいくらでも受け付けるので、今は我慢して欲しいと思う。
とは言え、意識が無いから覚えていることはないだろう。
意識が戻って嫌がったとしたら、すぐに離れようと思う。
温めてあげた甲斐があったのか、夜中辺りに少女が大量の汗をかき始めた。
私は乾いた布で少女の汗をぬぐい、少女の体を起こして口移しで水も飲ませてやった。
汗で湿った服も着替えさせてあげたい所だが、あいにく少女の着替えが近くにない。
仕方なく、俺の着替え用の服を着せてあげる事にした。
少女の服を脱がせて汗を拭きとり、少し大きめの俺の服を着せてやった。
少女の服は洗いたい所だが、まだ夜なので洗濯は出来ない。
窓際にかけておけば、そのうち乾くかもしれない。
私は再び寝ている少女を後ろから抱きしめ、温め続けて行った。
翌朝、少女の熱は少しだけ引いてきた感じだ。
だが、まだ平熱より高い状況で油断はできない。
外に置かれていた朝食を受け取り家の中に戻ってみると、少女の意識が戻っていて起き上がろうとしていた。
「大丈夫か?まだ寝ていた方が良いぞ」
「…」
少女は首を軽く振り、必死に起き上がろうとしている。
だけど力が入らないのか、起き上がることは出来ないでいた。
「便所か?」
「…」
少女が軽くうなずいたので、私は少女を支えながら立たせあげて便所まで連れて行った。
「一人で出来るか?」
「…」
少女は一人では立っていられない状況で、首を横に振っていた。
私は少女の下着を脱がせてやり、後ろから支えて用を済ませてやった。
後の処理も私が行ってやり、下着を履かせて連れ戻った。
「食事は食べられそうか?」
「…」
少女は首を横に振るが、食べさせないと病気は良くならない。
「少しだけでいいから食べてくれ」
少女の体を支えてやりながら、口元に朝食のスープをスプーンですくって、少しずつ飲ませてあげた。
三分の一ほどスープを食べ終え、そこで少女が首を横に振ったので食べさせるのを終わらせた。
少女を寝かせてやり、俺も朝食を急いで食べて食器を外へと持って行って洗い、元の位置に置いた。
天気が良かったので、昨日脱がせた少女の服と自分の服を洗濯して外に干した。
家の中に戻ると、少女が咳もせずに気持ちよく寝ていた。
額に手を当て熱を確認したが、まだ熱い。
井戸から新しく冷えた水を汲んで来て、少女の額を冷やしてやった。
しばらくすると少女がまた汗を大量に描いたので、少女に確認してから服を脱がせて体を拭いてあげて着替えさせた。
その際に水を木のコップから飲ませてやり、同時に便所にも連れて行って用をさせた。
そんな事を何回も繰り返し、翌日には少女の熱も少しだけ下がってきた。
咳もする回数も減って来たし、後は食事を良く摂れば回復に向かうはず。
今朝は、スープを全部飲む事が出来た。
朝と夜の食事はパンとスープのみで、しばらく何も食べてなかった少女にパンは消化に悪いだろうと思い与えていない。
この世界のパンは、穀物をつぶして水で丸め、手の平の大きさに広げて焼いたピザの生地のようなパンで少々硬い。
栄養価は高いから、もうしばらく回復してから食べさせるようにしよう。
「まだ食べられそうか?」
「…」
少女は頷いたので、私のスープを飲ませてやった。
半分ほど飲んだところで少女が首を横に振ったので、お腹いっぱいになったのだろう。
便所にも連れて行って用を済ませてやり、また寝かせてあげた。
私は残り物のパンとスープを頂き、食器を洗って戻し、洗濯をして少女の看病へと戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます