第四話 コルチリ村
「今日はここで野宿するしかないな…」
魚を槍で突き、川辺で火を焚いて魚を焼いて食べたまでは良かったが、そこで気が抜けてしまったのか、急激に眠気が襲って来た。
フォルガ村が疫病に襲われてから今日まで、まともに寝る暇なんてなかったからな…。
少し日が傾いて来ていて、寝ているうちに夜になるだろう。
焚火に大きめの枯れ木をくべ、鞄を枕に仮眠を取ることにした。
野宿は狩りに出た際に何度か体験しているものの、一人で寝るのは初めての事だ。
見張りを立てられないから、寝ている時に魔物に襲われる危険がかなり高い。
深く寝入らず、いつでも起きられるように注意しなくてはならない。
…。
焚火の火を消さないように、何度目か枯れ木をくべに起きた所で、不穏な気配を感じ取った。
私は槍を握りしめて立ち上がり、気配のした川の反対側を睨みつけた。
三…いや、四頭か?
暗闇の中に光る眼が、こちらの様子をうかがっているようだ。
視界が狭くなった夜、更に一人で戦うには厳しい状況だ。
一頭ならどうにかできるが、複数相手だと厳しい戦いになるだろう。
私は矢を取り出して、矢じりに火を点けるために用意した枯れ草を巻き付け、枯草に火を点けて光る眼にめがけて矢を撃ち込んだ。
「ふぅ~助かった。火に驚いて逃げてくれたみたいだ」
魔物でも、相手が強い行動をとれば逃げ出してくれる。
今回の場合、私は火の魔法が使えるぞ!と見せた事で逃げ出してくれた。
だが、相手も魔法を使える魔物だった場合は、逆に魔法で反撃を受ける場合もある。
その時は戦うしかなかったが、出来る事なら無駄な戦いは避けた方が良いに決まっている。
魔物は逃げ出してくれたが、また戻ってくるかもしれないので眠ることは出来ないな…。
私は夜明けまで焚火の火を眺めながら、何も考えないようにぼーっとして過ごした…。
夜明けと共に歩き出したが、足取りは重い…。
理由は焚火の炎を見ていると、家族や村人たちの事を思い出したからだ。
忘れる事なんてできない…。
やっぱり、私もあの時死んでしまえば楽になったのにと、何度も考えてしまう。
だけど、生きていることが神様から与えられた罰なのだ。
皆の死を胸に秘め、これからも思い悩んで生き続けて行かなければならないのだろう…。
「それ以上近づくな!」
日が真上に上がった頃に、隣のコルチリ村へと到着した。
しかし、コルチリ村の入り口に近づくと、村の警護をしている者から武器を向けられてしまった。
「フォルガ村の者だな?」
「はい、そうだ」
「フォルガ村はどうなった?」
「俺以外は…全員……亡くなりました」
警護の者に聞かれたので答えたけれど、その事を口に出すのはとても辛かった…。
疫病に侵されたフォルガ村には商人が入り口までやって来ていたので、コルチリ村にも当然その情報は入っていたのは間違いない。
だから、私に対するこの対応も納得できる。
「そうか、コルチリ村の決まりに沿って、お前を十日間隔離させてもらうが構わないな?」
「分かった」
フォルガ村でもそうだったように、病気に侵された者は他の者に病気をうつさないように、一定期間隔離される決まりだ。
これを拒否すればお尋ね者となり、周辺地域の村や町に知れ渡って入れなくなってしまう。
私は神様によって不死と言う呪いを受けているので病気ではないが、十日間我慢すれば晴れて自由の身となれる。
私は警備の者の指示に従い、コルチリ村から少し離れた場所にある高い木の柵で囲われた場所へとやって来た。
「飯は朝と夕に小屋の前に届けさせる。欲しい物があれば外にいる者に大声で伝えてくれ」
「分かった」
柵の鍵を開けてもらい中に入って行くと、小さな家が一軒だけあった。
井戸もあるから水には困らないが、感染を防ぐ意味では井戸が無い方が良いと思う。
しかし、この世界では細菌によって病気が感染するという知識が無いため、病人と接触しない事だけに重点が置かれて井戸も用意されているのだと思う。
家の周辺を確認した後、玄関の扉を開けて家の中に入って行った。
「こほっ、こほっ」
どうやら私の他にも、ここに入れられている人がいたみたいで、咳をしている声が聞こえて来た。
「失礼する」
私は声を掛けて奥へと進んでいくと、板の上に薄い布一枚かけただけで寝ている少女を見つけた。
この状況で放置されていれば、軽い病気でも悪化して死んでしまうに違いない。
私は背負っていた鞄を下ろし、中から厚手の布と冬服を取り出して寝床を作ってあげた。
「動かすぞ?」
「こほっ、こほっ」
少女は咳をしているが、意識はほとんどない状況だ。
私は少女を抱き上げ、作った寝床の上に寝かせてあげた。
この様子では、食事もろくに摂れていないのだろう…。
私は家の外に出て、柵の外にいる人に寝床になる物を要求してみた。
「夕食時に用意させる」
そう返事が帰って来たので、布団か何かを用意してくれるのだろう。
私は井戸に行って水を汲み、少女の所まで持っていった。
先ほど抱き上げた際に感じたのだが、少女はかなりの高熱を発していた。
鞄から布を取り出し、汲み上げて来たばかりの冷たい水に布を浸してよく絞り、少女の額にのせて冷やしてやった。
熱が下がりさえすれば、食事も摂る事が出来るようになるだろう。
夕食が来るまでの間、私は温かくなった布を何度も取り換え、少女の額を冷やし続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます