第二話 神罰
『やはり同じ結果となったか…』
体中が燃え盛る中、頭の中に不思議な声が聞こえて来た…。
『宣言通り、貴様には神罰としての使命を与える!』
神罰?使命?
俺は死にかけている時に、夢でも見ているのだろうか?
そう思った次の瞬間、頭が割れるような激しい痛みを感じ取り、そこで意識を失ってしまった…。
………。
……。
…。
俺は死んでしまったのか…。
いいえ、私は…そう…私は思い出してしまった…。
私は生前、日本ごく普通の家庭に生まれ、普通に育って普通の大学を卒業し、小さな会社に入社して、その会社に勤めていた妻と結婚し、一人娘を授かり幸せな生活を送っている、どこにでもいるような普通の男だった。
普通の幸せをつかんだ普通の男は、ある日を境に不幸のどん底にたたき落された…。
それは、娘が小学校に上がる前に、家族三人でランドセルを買いに行った時の事だった。
親子三人で仲良く手を繋ぎ、青信号になった横断歩道を渡っていると、誰かの叫び声が聞こえて来たと同時に、激しい衝撃を受け、私達親子三人はその場から弾き飛ばされてしまった!
体中から激しい痛みが押し寄せてきたが、妻と娘を顔だけ動かして探した。
二メートルくらい離れた場所に娘が倒れており、娘から四メートルくらい離れた場所に血を大量に流している妻の姿を見つけた。
私は体を起こそうと力を込めたが、右手と右足は完全に骨折していて動かなかった。
かろうじて動く左手と左足を使い、娘の所まで必死に這い寄って行った…。
「パ…パ…い…たい…よ…」
何とか娘の所に辿り着いたが、ひゅーひゅーとか細く息をしながら、私に痛みを訴えて来ていた。
「すぐに…助けてやるから…な!」
「う…ん…」
娘はそこで気を失ったのか、返事をしなくなってしまった。
「だれか…救急車を…救急…車…」
私もそこで力尽き、意識を失ってしまった…。
…。
意識を取り戻したのは、病院のベッドの中だった。
私は体を起こそうとしたが、色々な管を取り付けられていて身動きが取れない状況だった。
やっと体を起こせるようになったのは、意識を取り戻した三日後の事だった。
普通の病室に移された私を待っていたのは、悲痛な表情を浮かべた両親だった。
「妻と娘は…」
私が妻と娘の安否を両親に尋ねると母は泣き崩れ、父は声を詰まらせながら妻と娘の死を知らせてくれた。
私も一時は危なかったらしいが、奇跡的に命を取り留めてしまった…。
私も死ねば、妻と娘の所に行けただろうに…。
両親が帰った後、近くにあった紙に両親への手紙を書き残し、私は深夜に病院のベッドをひっそりと抜け出して、不自由な右足を引きずりながら屋上へと上がって行った。
私は苦労しながら屋上の柵を乗り越え、
少し遅れたけれど、今から妻と娘の所に行けますように。
そう願いながら、私の体は堅い地面へと吸い込まれて行った…。
私は死んだのだろう…。
何かに吸い寄せられるように、真っ白に光り輝く場所へと向かっている。
やがて、真っ白な光に包まれたかと思った瞬間、目の前に光り輝く人物が現れた。
『私は神であり、お前には新たな命を授ける』
光り輝く人物は神様だと名乗り、私に生まれ変われると教えてくれた。
死んだことは間違いないし、生まれ変わりも受け入れます。
だけどその前に、どうしても一つ聞いておきたいことがあったので、神様に問いかけてみた。
「私の妻と娘は、生まれ変われたのでしょうか?」
『安心すると良い、二人とも新たな世界で幸せに過ごしている』
「それは良かったです…」
妻と娘も無事に生まれ変わる事が出来たと言うのであれば、もう何も思い残すことはない。
私は見知らぬ場所の、見知らぬ家族のもとに生まれて、新たな生活を送ることになるのだろう。
『お前は自ら死を選ぶという大罪を犯した。それも六回連続でだ。
故に、お前の次の転生先でもう一度自ら死を選んだ場合は、罰を与える事にする』
「えっ!?」
確かに私は自殺したが、六回連続と言うのは記憶にない。
誰だって、生前の記憶なんか持ち合わせていないから当然の事だろう。
それなのに罰を与えられるというのは、
『自ら死を選んだ場合お前は記憶を取り戻し、これから与える罰を実行せよ。
その罰とは、お前が自ら死を選んだ七回分、他人の命を救え。
お前の命が尽きる時まで達成できなかった場合は、次の転生は無い!』
「そ…そんな…」
私の罪は一回のみだと思うが、神様には逆らえず神罰を受け入れるしかなさそうだ。
それに、次の転生先で自殺しなければいい、という慈悲も与えてもらっている。
私の記憶はないのだろうけれど、自殺しない事を願うばかりだ。
『お前には期待しておらぬので、能力を一つ与える。
それは不死だ。
どんなに怪我をしようとも、不治の病に侵されようとも、お前は決して死ぬことはない。
ただし、不老ではない故、寿命が来れば死ぬこととなる。
それではお前を転生させる』
私が反論する間もなく、私の意識はそこで途絶えてしまった…。
…。
これが私が思い出した記憶だ。
私は燃え盛る炎の中でステイリーに最後の別れを済ませて、炎の中から外に出た…。
着ていた服は焼けてなくなっており、裸になっているのでよく分かるが、私の体は煤で黒く汚れてはいるが綺麗なままだ。
神様が言っていた不死だというのは、間違いない事だろう。
そもそも、あれだけ燃え盛る炎の中から生きて出られるはずもない。
神様からの使命も大切だが、その前に皆のお墓を作ってあげなくてはならない。
私は家に戻って服を着てから、骨となった村人たちのお墓を作ることにした…。
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