不滅の弱者
よしの
第一章 神罰
第一話 フォルガ村全滅
「お兄ちゃん…だーいすき…」
「スティ!スティ!!俺をおいて逝かないでくれ!!!」
妹ステイリーはニコッと笑い、その表情のままゆっくりと目を瞑って行った。
弱くも、しっかりと握っていてくれた妹ステイリーの手からも力が抜け、もう二度と握り返してくれることは無くなってしまった…。
俺はただただ、ステイリーの手を握りしめながら、枯れ果てた思っていた眼から、涙を流し続ける事しかできなかった。
ステイリーとの別れを嘆いてばかりはいられない。
俺はステイリーを大切に大切に抱き上げ、村の広場へとステイリーを運んで行った…。
村の広場では、今も煌々と燃え盛る炎が夜の村を照らし続けていた。
俺はステイリーを地面にゆっくりと置き、燃え盛る炎の傍に薪を組んでいった。
ステイリーを組んだ牧の上に乗せ、最後にステイリーを強く抱きしめて別れを惜しんだ…。
「スティ、俺もスティが大好きだった!スティの事は一生忘れない!父さんと母さんも待っているだろうし、俺もすぐに向かうから安心してくれ!」
燃え盛る炎の方から燃えている薪を拾い上げ、ステイリーの下に火を点けた。
薪は瞬く間に燃え上がり、可愛らしいステイリーが炎に包まれた…。
「これで俺が死ねば、誰にも迷惑が掛ける事はなくなるだろう」
俺は、疫病に侵されたフォルガ村の最後の住人となった。
俺だけが疫病の症状が出なかったが、いつ疫病に侵されて死ぬか分からない。
それに、誰かに疫病をうつしたともなれば、被害がさらに広がることになってしまう。
「皆すまない…」
広場に残る燃え後では、焼けて骨だけになった村の住人全員が残されていた。
骨を埋めてやりたい所だが、俺にはもうその気力すら残っていなかった。
骨となった村の住人達に謝り、俺は燃え上がっているステイリーの所に身を投げ出した。
熱く、とても苦しい!
だがそれも、すぐに無くなるだろう…。
ステイリーと共に死ねるのであれば、その苦しさも全く気にならない…。
俺の心の中にある思いは、熱さや苦しさではなく、フォルガ村の人達に対する
俺はチェルコート王国の片田舎にある、人口百人弱のフォルガ村に生まれ育った。
父レイフィースと母ディアリーの長男レイフィースとして生まれ、妹ステイリーも含めた四人家族で仲良く暮らしていた。
朝は日の出と共に家族全員で畑仕事をし、畑仕事が終わって家に帰ると家族全員で朝食を食べる。
母とステイリーは家の仕事をし、俺と父は天気が良ければ、村の男達と狩りに出かける。
フォルガ村の周辺には危険な魔物が多く生息しているので、こまめに狩っておかないと村に大きな被害が出る事になる。
今日は村の西の平原を中心として、狩りをすることになった。
俺は村一番の弓の名手である父と数人の村の男達共に、弓と槍を持って魔物を狩っていた。
狩りは順調に行き、そろそろ帰るかと言う所で、俺は異変を感じで空を見上げた。
「人攫いだ!」
かなり遠くにいるが、あれは間違いなく人攫いだ!
人攫い(サイレントホーク)は大きな鳥型の魔物で、上空から急降下してきて地上にいる獲物を一瞬で攫って行く魔物だ。
勿論、人も余裕で攫って行って食料にする危険な魔物だ。
今は春先で、例年通りなら人攫いがフォルガ村の近くに来るようになるのは秋頃だが、春先に来た例が無くもない。
俺は一番最初に見つけられて嬉しくなり、弓を構えながら人攫いがこちらに飛んでくることを願った。
「来たぞ、全員弓を構え、十分引き付けてから放て!」
人攫いは俺の願い通りにこちらに近づいて来ていたが、少し飛び方がおかしい気がする。
隣で弓を構えている父も異変に気付いたかもしれないが、今はよそ見をしている余裕はない。
「放て!」
急降下してきた人攫いに対して、俺たちは一斉に矢を放った!
人攫いは多くの矢を受け、そのまま地面へと激突した!
俺たちは各々の武器を構え、地面に落ちた人攫いに止めを刺した!
皆は人攫いを倒した事に歓喜し、持ち帰るために解体を始めた。
人攫いは危険な魔物だが、その肉はとても美味い。
羽は冬に使う布団や服の裏側に張り付けるととても暖かく、冬の寒さをしのぐにとても重宝される。
鋭い牙と爪は武器として使用できるし、骨は魔法の触媒になるらしく、月に一度だけ来る商人に高く買い取って貰える。
解体した人攫いを村に持ち帰り、その日は季節外れの恵みに感謝しつつ、村人全員で人攫いの肉を焼いて食べた。
それから二日後、老人や幼い子供が高熱と激しい咳をして倒れ始めた。
日を追うごとに倒れる村人が増えて行き、ついに最初に倒れた老人や幼い子供が亡くなって行った…。
「亡くなった者を火葬し、村から疫病が漏れ出るのを防ぐのだ!それと、もうすぐ商人が来る予定だが、決して村へ入れずに帰らせろ!」
村長の指示に従い、まだ元気だった俺と数人の男達で村の広場に薪を組み上げ、そこに亡くなった村人たちを運んで火葬していった。
村の柵も締め切り、やって来た商人も追い返した。
日を追うごとに死人は増え続け、俺の両親も亡くなってしまった。
そして最後に残ったっステイリーも亡くなり、フォルガ村の住人は俺を残して全滅してしまった…。
俺があの時人攫いに気づかなければ…大声で叫ばなければ…人攫いも俺に気づかず素通りしていたかもしれない…。
俺が村人を殺したようなものだ…。
皆すまない…許してもらえないと思うが、本当にすまなかった…。
燃え行く中で、俺はフォルガ村の皆に対して、謝り続けて行った…。
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