記憶の固執の崩壊(1954)
スマートフォンを含む液晶の世界に、画期的な革命をもたらしたのは一人の女性だった。彼女は多くのメディアで話題をさらったが、その理由は出自にあった。
Aという名のこの女性は、なんと少数民族サルマントリの出身である。サルマントリ族は比較的近年になってから発見された部族で、伝統的には火さえも使わない暮らしぶりをしていた。Aは幼少時代を文明とはかけ離れた世界に囲まれて暮らしたが、それから十年で、時代の寵児となった。本記事ではAの跳躍について紹介したい。
サルマントリ族のある青年は、事故で川の下流まで到達することになった。怪我をしていた青年は手厚い看護を受け回復したが、その際にスマホや電気、そして火の扱いを学ぶこととなった。部族の伝統的な考えにおいて、それは到底許容できないものであったが、この好奇心の強い青年のおかげで、はじめの文明がサルマントリ族にもたらされたことになる。
Aはこの画期的な事件をこう語っている。
「私が十二歳と三カ月になろうとする頃、火や電気が村に入ってきました。やがてスマホやタブレットもやってきました。小さな液晶の中に人間たちがうごめいている様は、それは本当に素晴らしかった。特にゾンビ映画が良かったですね。追いかけまわされる主人公を見て、みんなで大笑いしたものです」
その頃、わずか十二歳のAは村の建築士として、すでにサルマントリ族のエースであった。彼らは小石を集めては積んで家を作る技術を持っており、家族が増えれば自在に増築し、住むものがいなくなれば石を再利用していた。Aは語る。
「建築士として働くのも、悪くはありませんでした。どこに増築してもバランスがとれるように小石を配置するのは楽しかったですし。ただ、私にはもっと気になることがありました。それはスマホの液晶の大きさです。あれは本当に気に食わなかったのです」
青年や外部の人間たちがもたらしたスマホの液晶は、彼女の手には大きかったのだという。Aはなおも言葉を継ぐ。
「でも本当に気に食わなかったのは、私の気の変わりやすさです。だって、昨日はもっと大きい画面が良いと思っていたのに、今日はそれよりも大きい、巨大な液晶が欲しくなるんですもの!」
いわずもがな、Aは液晶分野においても、建築士としての技術を応用しはじめた。
「私たちサルマントリ族は、ほら、いわばマイノリティでしょう。文明から隔絶されてきた人間がどのように世界的な技術に身を寄せていくか、それに興味がある人も多かったわけです。おかげで勉学には苦労しませんでした」
はじめて液晶を見た八年後、Aは驚くべき早さで技術者としてのキャリアを築き上げた。そして、その名を馳せる大発明を行うことになる。
「サルマントリの村にいた頃、小石を集めて家を作りました。気分で家の広さを決めていました。その自由さが、液晶にも欲しかったのです」
これが発売と同時に世界を席巻した、超高機能組み合わせ式スマホ、YEAHのはじまりである。
三カ月後のB月C日、ホノルル時間のD時発売の最新スマホ、改良型YEEEAHはさらにカスタムパーツが付属し、タブレット化も折り畳み式も自由自在だ。さらに音響はEEE式を採用、もちろん液晶画面はFFを搭載、最高度の品質が保証されている。
Aはさらに、野望を語る。
「これからは資源を無駄なく使う時代です。産業革命後の、製造しては捨てる感覚を諦めねばなりません。家も、時計も、いいえ、バカンスに行く島だって、最小単位で盛ったりしぼませたりできるようになるでしょう」
今後の彼女の活躍に注目あれ。
※改良型YEEEAHは発売と同時に予約完売
おしまい。
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