目覚めの一瞬前に柘榴の周りを蜜蜂が飛びまわったことによって引き起こされた夢(1944)
ブラックホールの夢を見たんだ。それはお姉ちゃんの本を読んだからで、たぶんそれが宇宙のことについて触れられていたせいだ。
僕のブラックホールの理解と言えばこうだ。なんでもグイグイ掃除機みたいに吸い込んでしまって、そして絶対返してはくれない。どんなに大きなお星様も、月も、太陽みたいにギラギラ燃えるものだって、全部全部吸い込んで、ぺろりと食べてしまうんだ。
何の為にそんなことするのか、ぼくは知らない。でも僕のお姉ちゃんだって、お菓子をむやみやたらに食べて後悔したりするし、そう考えれば、特に珍しい事でもないのかもしれない。多分ブラックホールは、かなりお腹が空いている。きっとそれだけなんだろう。
そうそれで、僕はブラックホールの夢見たんだ。
うちの庭には、一本のザクロの木が生えている。美味しそうに少し割れたその身を僕は食べようとして手を伸ばす。中からは赤いつぶつぶが見えていて、かむときっとじゅわっと中身が飛び出て来て口いっぱいに甘酸っぱい味が広がるんだ。
そう僕は、ザクロを食べようとしたんだ。それがまさか、ザクロに襲われることになるなんて、考えもしなかった。手を延ばしてその指が触れようとした瞬間、ちっちゃい頃は赤い粒を赤い粒をワーッと見せびらかしてぱっくり口を開けた。そして邪悪な掃除機みたいに、僕の腕を吸い込もうとしたんだ。
それはまるで罠だった。このあいだ見た物語には、長生きのエルフが宝箱に食べられてしまうシーンがあったけれども、まるでそれと同じような状況だ。でも僕は頭からパクリと食べられてしまいはしないで、パッと背を向けて逃げ出した。
免許も持っていないくせに車を運転して逃げようと思ったんだ。でも車には先客がいて、なんと動物園から脱走して来たらしい虎が屋根の上で日向ぼっこをしている。僕はおったまげた。
後ろにはザクロのブラックホール、前には昼寝をしている虎がいる。そして運が悪いことに、その虎は僕にすぐ気が付いて体を起こした。虎の模様が母ちゃんのジャケットの刺繍によく似ていた。
虎はぼくを食べようとする。車に乗ることもできず立ち止まった僕の首元を、まるで獲物を見つけた猫みたいに狙おうとしている。そして躊躇いなく飛びついてきた。
僕はさっと体をよけて、なんとトラをかわして、走った。運動会でもこんなに本気じゃなかったぞ、というぐらいに走る。後ろからに「アオオウ」と声がして、振り返ってみると、そこにはちょうど吸い込まれていく虎が見えた。
僕はそれでもぐんぐん走って、自分の悲鳴で目を覚ました。リビングで寝ていたんだ。お姉ちゃんはプリンを食べながら、スプーンを口にくわえて、僕に言った。
「あんた、寝ながら走ってたよ。足なんかバタバタさせちゃってさ。うーけーるー!」
おしまい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます