■ 19 ■ それぞれの選択 Ⅱ






『ちょっとちょっと! 何が起こってるのよ!』

『キサラギ! 大丈夫!?』


 格納庫のフィクシィ、厨房の姉からの悲鳴が伝声管を通して伝わってくるが、それに応じるのはキサラギではなく――


「えーと、あらっぽくするから何かにつかまってて、ってクロが!」

『え? ヤヨイ? どうして?』

「クロがねー、ちょっと動けなくなっちゃったからかわりに私が!」

『え? クロの代わりって何が!?』

「うるさいから閉じちゃおう、えい」


 伝声管の蓋を閉じたキサラギが、


「? そっか、先にお兄ちゃんから眼紋獣オセラスを追い払わないといけないんだね!」


 さも当然の顔で操舵輪を握る。


「おもかじいっぱーい!」


 ドラララとミツキが操舵輪を回転させれば、当然のようにマンジェットが凄まじい勢いで回頭する。

 フルスロットルでそんな制御をされれば艦が横滑りを始め、


「ヤマブキー、これでいい?」

『ギョイ、ヘイズ』


 だがそれと同時にヤマブキが主砲の出力を絞って艦砲射撃。放たれた砲火が、実験機を直撃する・・・・・・・・


「ちょ! ヤヨイ!? お兄ちゃん機に当たってるじゃない!」

「うん、ヤマブキがね、ハエたたきしてからじゃないと回収できないって!」


 なるほど。低出力の火線は実験機に群がっていた一ツ目モノキュラを一掃したようだが――

 とんでもない思い切りだ。まさか艦砲で味方を撃つだなどと。


「とりかじいっぱーい! うん、このままいけばいいのねクロ!」

「ヤ……ヤヨイ、誰と話しているの?」


 さっきから虚空と話しているヤヨイはしかし、そう姉に問われて不思議そうに小首を傾げて、


「え? クロたちとだけど」


 当然の顔でそう言ってくる。そうしてキサラギは気が付いた。ヤヨイの右上腕に輝く魔晶マギスフィアに。

 三姉妹の中で唯一、最初からこのマンジェット生活を恐れず、グラナやヘイズに妹が懐いていた理由に。


「わかった、やってみるねクロ。クシィお姉ちゃん、ちょっと危ないからかくのうこからにげてー!」


 伝声管に一方的にそう伝え、ヤヨイがラダーを操作し下げ舵を切ると、マンジェットの艦首が僅かに砂の中へと沈み始める。


「モモ、ハッチあけて! このままつっこむから!」

「このまま突っ込むって……えぇえ嘘でしょぉおお!?」


 キサラギは悲鳴ならぬ悲鳴を上げた。ヤヨイが、というかヤヨイに指示しているらしいクロが何を狙っているのか理解できてしまったのだ。

 マンジェットの正面、カタパルトのあるARM発着艦用メインハッチが大きく口を広げ始める。速度はそのまま僅かに下げ舵、実験機を正面に見据えているその動きはまさに――


「はい、がぶーっと!」


 動きを止めた実験機を流砂ごと艦首で咥えて呑み込むように回収すれば――今頃格納庫とカタパルトは砂まみれで使い物にならなくなっているだろう。

 だが、


「行ってきなよお姉ちゃん。お兄ちゃんがシンパイなんでしょ?」


 実験機の回収それ自体は成功した。あまりに無茶で無謀で被害が凄まじいが、それでも目的は達成できている。

 だからキサラギはもどかしくもシートベルトを外して泣きながら頷き、格納庫へと走っていく。


「お姉ちゃんってば、頭ではお兄ちゃんのこと認めてるくせに心が頑固でぜーんぜん素直になれないんだから。ホント情けないよね、ミドリ?」

「ギョイ、ヘイズ」

「それそれ。世話がやけるよね」


 ミドリが何と返したのかは、ヤヨイ以外には分からない。


「さーて、あとはキャプテンが帰ってくるまでやるぞーッ! マンジェットと私たちマリーンの実力をみせてやろー!」

『ギョイ、ヘイズ!』






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