■ 07 ■ 専用剣・焔星
「せぇー、のぉッ!!」
雄叫びと同時にC8ソードロッドを振り抜けば、【
瞬時に機体を捻って独楽のように旋回、踵を背後の
――AaaaaaaaAAaaaaa……!
ズキン、ズキンと一体
「食らうかよぉ!」
地中から突如として鎌首をもたげてきたヘビ型の
先程からどういうわけか、グラナには敵の動きが分かるのだ。正確に言えば、敵がどう攻撃してくるかが攻撃されるより先に知覚できる。
さらには、
「避けた、避けてるよ……! 俺の操縦が避けてる!」
噛み付いてくるトラ型
何故か先読みできるオセラスの動き。何故か【
この二つの条件のおかげで、何とかグラナはオセラスの群れとギリギリ拮抗できていたわけだが、
「! 拙い!」
気付けば右に一体左に二体、左右を
どれだけ先読みができようと、頭の動きに合わせて踊る熱線に三方向から狙われれば、回避運動を行なう先それ自体が阻まれる詰みにもっていかれる。
それでも何とか回避を、と試みて機体のスロットルに手をかけ、オーバーブーストをかけようとした、瞬間。
『ヤマブキ、撃ち方始め!』
『ギョイ、ヘイズ』
眩い光の束が左
『ハッハァ! 観測射撃なしで命中弾たぁやるじゃねぇかヤマブキぃ!』
『ギョイ、ヘイズ!』
何が、と思うより早くにグラナの視界に飛び込んできたのは、
「な、何だ!? あれ!」
砂の中から突き出た塔、いや、違う。
あれは舳先だ。
船の先端だ。
「す、砂の中を航行する船……?」
オセラスの白磁のそれとは違う、金属の輝きと剛性を備えた船首。それが熱砂の
再度放たれた大口径の火線砲が、恐らく弾薬に引火したのだろう。先ほど被弾し、誘爆している
「やった!
反撃とばかりに残る二体の
「すげぇ! なんて強力な
その船が展開した
火線が細り、消え失せるとほぼ同時に、
『聞こえるか究極ナマズンゴ! 貸しのついでを受け取れ!』
船体上方の蓋が開くと、そこより飛翔体が発射され、放物線を描きつつ制動をかけてグラナの側、砂の海へと着弾。
自動的に外装がパージされて、中から姿を現したのは、
「ソードロッド、専用剣だ!」
実験機の全高とほぼ同程度の刃渡りを持つ、長大な真紅のソードロッドだ。
専用剣はエースの証、借り物であると分かっていても、嫌が応にもグラナの血が滾っていく。
C8を腰のハードポイントに固定し、両手でソレの柄を握りしめれば、機体がソードロッド内部に刻まれている
《
兵装セレクタ画面にソードロッドからのメッセージが転送されてきてグラナは二度びっくりだ。
「じゃ、じゃあカットで!」
《
グラナが応じると同時に、自動的に
まさにフランベルジュの如く赤く揺らめく焔の刀身は既に実験機の三倍以上にまで伸び上がって――然るにこんな長大なもの、使い道なんて一つしかない。
「いっくぞぉおおっ!!」
グラナを圧し留めんと迫りくる
時間稼ぎ宜しく背部より放たれる誘導飛翔体を回避し、切り捨てる間に
『主砲第二射、撃てぇ!』
『ギョイ、ヘイズ』
する前に鋼の船からの支援射撃。
「くたばれぇえええええええっ!!」
《
その長い胴体を駆け上り専用剣を大上段から振り下ろし、背中から
巨体が流砂の上に倒れた後に船が減速停止し、
《
「撃ち抜く!」
《
瞬時に燃え上がる炎が雲散霧消したソードロッドの刀身が、中央からフォークのように二つ、四つ、八つと割れていく。
そのまま回転して、宝石を掴む爪のような形状となったソードロットの中央に、宝石代わりの赤い灼熱が渦を巻く。
見やれば残る最後の
「分かったよ、正面からぶち抜けってんでしょ」
ソードロッドの刀身が螺旋を描いて引き絞られ、砲身へと再形成されれば、その銃口から漏れ出す光は疾く撃てとグラナに逸っているようですらある。
だが、まだだ。まだモニター上の照準が定まっていない。
まだか、まだかと、実際には三秒も経過していないだろう長い時間の果てに、モニターの中の照準がロックされて――
《
「ラジャー!」
《
メッセージログを残してソードロッドが基底状態へと形状を戻せば、周囲にはもう動く影は一つとして残っていない。
「勝った……はは、じっかんがわかないや」
ガンガンと響く頭痛に額を抑えながら、グラナは熱い吐息を零した。
今日はもう、頭を使いたくない。考えなきゃいけないこと、考えても分からないことが多すぎて、しかも物理的に頭が痛くて思考が纏まらない。
だが、
『まさかそいつを扱える奴がいるとはな。気に入った! お前、グラナだったか? 俺に雇われる気はねぇか?』
船を停止させたヘイズが無線を繋いで、実験機のコクピットにいるグラナにそう問いかけてくる。
「雇う……
『そうだ。俺が望むのは最強のARMだ。神にも負けないARMだ。それを作り上げるためにはお前の力が要る。だから俺と共に来いグラナ! 俺がお前に最強の機体をくれてやる!』
――最強の、ARM。
二つ目の故郷を出るときの、友人たちの顔が脳裏に浮かんでは消えていく。
誉め称える顔ではない。やめておけと語っている顔。自分たちがバカにしすぎたから、友人に意地を張らせて死地に送り込んでしまったと反省する顔。
『お前には無理だ』
即ち、グラナが栄達できるとはこれっぽっちも考えていない、哀れみの顔だ。
「最強の機体に、俺を乗せてくれるって、嘘じゃないよね」
『お前が努力を怠らなければ、の話だがな。胡座かいてる奴には俺は興味がねぇ』
「努力ならするさ。強くなれるならいくらだって努力してやる」
そう、努力すればあんな――自分たちのように故郷を焼かれる人たちを無くせるというのなら。
『契約成立だ。
あるいはグラナは、悪魔の手を取ってしまったのかもしれない。だが、それでも後悔はない。
『お前の力が要る』
ヘイズは、ヘイズだけがグラナの人生で唯一、そうグラナに言ってくれた存在なのだから。
「やってやるとも」
例えそれが悪魔の手であろうと構わない。悪魔の力だって、人の生活を守れるのならば上等というものだ。
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