■ 05 ■ 頑張れ究極ナマズンゴ(仮)






 そうして、グラナは実験機を駆って地上を走る。

 無論、走るというのは比喩的表現であり、耐震結界A E Fの展開されていない流砂に足を付ければ、浮力を得にくい構造である応戦機ARMなど砂中に沈んでいってしまう。


 過去の大戦時、惑星全土にDEMONが打ち込んだ超振動粉砕装置ヴァイブレイトバスターによって、この星の大陸の大半は砂漠と化している。

 その上現在も稼働中の超振動粉砕装置ヴァイブレイトバスターによって擬塑性流体化した砂漠は流砂と化し、地表にある全てを地中へと沈めてしまう。


 これにより人の生活圏は大きく衰退、大戦を生き延びた数少ない護星獣マリステラに守られた僅かな土地が都市として人の生活を支えているという体たらくだ。

 弊害は日常生活のみならず、このせいで眼紋獣オセラスとの戦闘は常に遮蔽物のない開けた空間での戦を強いられる始末である。

 排除しようにも超々深度に打ち込まれた超振動粉砕装置ヴァイブレイトバスターまで辿り着ける手段が、今の人類にはない。


「急がないと、また一つの街が、オンボスシティが流砂に呑まれる……!」


 逸る心を抑えて、グラナは実験機を駆る。

 機体に搭載されたスラスター用霊譜スコアに魔力を流せば更なる加速は可能だが、オーバーブーストは魔力対効果が極めて悪い。

 戦場に到達したら魔力切れでした、ではC8ソードロッドに刻まれた戦闘用霊譜スコアを起動できずに、ただ的になって終わるだけだ。


耐震結界A E Fを張ってくれる母艦は無し、こちらは単機で武装は量産品のC8のみ、おまけに機体は乗ったら死ぬらしい実験機か」


 条件はグラナが考え得る限り最悪だ。いや、機体がまだ万全の状態ではあるから最悪の最悪ではないだろうが。

 ややあって、流砂を泳ぐ四ツ目テトラキュラの背中を視界に収めたグラナはC8ソードロッドに意識を向け、そこに刻まれた霊譜スコアを起動する。


 【熱線ヒートレイ】。

 対オセラス兵装としては標準的な、使い勝手のいい遠距離攻撃霊譜スコア四ツ目テトラキュラの背中に撃ち放つと、恐らく背後警戒機であったのだろう。

 三ツ目トリキュラが射線上に割り込んできて盾となって、【熱線ヒートレイ】をその身で相殺、地に落ちて砂に呑まれていく。

 奇襲は失敗。だが、もう止まれない。


「こっちを向けってんだよ!」


 二度、三度。操縦桿に備えられた引金トリガを引いて、両手のC8から【熱線ヒートレイ】を連射すれば、流石に四ツ目テトラキュラとて無視はできまい。

 背部開口部から誘導飛翔弾体が垂直射出、上空から迫りくるそれを機体の急制動と方向変換、【熱線ヒートレイ】による迎撃で何とか撃墜、回避すれば、


「クソッ、多勢に無勢か!」


 既にグラナ機の周囲を多数の三ツ目トリキュラが取り囲んでおり、めいめいに顎門を開いて、その中に仕込まれている粒子加速砲が一斉に火を吹き始める。


「うっわぉおぉぉぉおおおっ!!」


 咄嗟にグラナが輻輳する火線を回避できたのは、どちらかと言うと幸運が味方した結果に近い。

 慣れない機体で無理矢理取った回避行動が敵の意表を突く動きになって、運良くグラナは数多の砲火を回避――いや、


「右腕に直撃、戦闘続行に支障なし……クソッ、魔力は削られたな――」


 同じ積層ハードキチン装甲を備えるオセラスとARMだが、装甲に関してはARMの方が強固に作られている。

 純白の積層ハードチキンの上に展開されている防御霊譜シールドスコアFluence魔力 Distribution式分配 Armor装甲は点の衝撃を機体全体で受け止める衝撃分散霊譜スコアだ。

 このFD装甲が稼働している間は多少の直撃程度ならARMが沈むことはない。もっとも直撃をくらうと結構な魔力を持っていかれるため、これを頼みにしたゴリ押しは死と同義に近いが。


 包囲を狭められる前にグラナは【熱線ヒートレイ】の霊譜スコアを閉じて、【熱剣ヒートブレード】の霊譜スコアを展開。


「っだらしゃぁああっ!!」


 背後に感じた殺気に向けて機体を旋回、背中から飛びかかってきた豹のようにしなやかな三ツ目トリキュラの頭蓋を両断する。と、


――AaaaaaaaAAaaaaa……!


「な、なんだ? 変な音が頭の中で……」


 オーレル搭乗時には聞こえなかった異音、直接頭蓋内をかき回されているような不快感。

 ざらついた思考に引きずられ意識が一瞬飛びかけ、慌てて目を瞬いたグラナは周囲に気配を飛ばす、と、


「うわおぉおおおおっ!」


 赤熱したC8ソードロッドを振り抜いた残心状態の実験機目掛けて、サイのような三ツ目トリキュラが横合いから突貫してくる。

 慌てて操縦桿を操作し、チリリと角にFD装甲まりょくを削られながらも、間一髪でこれを回避しきり――


――あれ、どうなってんだこれ。


 グラナはあり得ない事実に気が付いた。

 鈍亀ラガードグラナが搭乗しているというのにこの実験機、さっきからどういうわけか妙に機敏に動く・・・・・・・・・・・・・・






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