第7話
「うわッははは……」
驚きを笑い声で誤魔化しながら私はももから顔を背ける。
このときももがどういう反応をしていたのか。私は知らない。見えていなかった。ただ何の言葉も聞こえてはきていなかったから、ももは何も反応などしていなかったのかもしれない。
恥ずかしい。
ももと顔を寄せ合った事を恥ずかしがってしまった事が恥ずかしい。
恥ずかしがってしまった顔をももに見られた。恥ずかしい。
ももには格好良い私だけを見せたいのに。情けない姿は見せたくないのに。
――気が付けば球技大会は終わっていた。
体育館から校舎の中へと戻る途中、私とももの二人は何故か小野寺君に「せっかく応援してもらったのに勝てなくてごめんな」と謝られてしまったが私には小野寺君を応援したという記憶がなかった。覚えていない。
応援したのか? 私が。小野寺君を?
どうして?
そもそもこの球技大会はクラス対抗戦で小野寺君は私やももとは別のクラスだ。
応援する理由は無いはずなのだが、
「ううん。ゼンゼン。小野寺君は頑張ってたよー」
ももの発言から察するに少なくともももは応援をしていたようだった。
が覚えていない。思い出せない。
私が思い出せるものはももの目に映る自分の姿ばかりだった。
夏休みを挟んで運動会。小野寺君と日高君がリレーの選手に選ばれた。
クラスの違う小野寺君と日高君は仲間同士ではなくて敵同士だ。
私とももと関さんはそれぞれに違う思いから日高君を大声で応援した。
競技がリレーだったので「よーいどん!」と同じタイミングでスタートできたわけではなかったが結果として先に次の走者へとバトンを繋いだのは応援していなかった小野寺君の方だった。
秋も深まって校外学習。二年生全員が近場にある美術館へと連れて行かれる。
その道中。私とももは並んで歩いていた。道路の右側。私の右手側にももが居た。横断歩道を渡って道路の左側に移る。その際にごちゃついてしまったせいで、本当に偶然、私はももの右側に立った。その立ち位置のまま歩みを進める。
横断歩道を渡る前、左を向いて「綾香ちゃん」と笑っていたももが、
「あれ? 綾香ちゃん?」
横断歩道を渡った直後に違和感を訴えた。それから右を見て、
「あ。綾香ちゃん」
にこにこにこーと顔全体で微笑んだももは、
「すごいね。さすが。綾香ちゃん。やさしい。かっこいい」
手放しで私を褒め始めた。
「ん? え? なに?」と呟いてしまってから私は「……ああ」と察した。
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