第5話
夜に自宅の自室で電話線を介した二人きりのお勉強会か。
中学生同士に相応しいほのかな甘みが醸し出される非常に魅力的な提案だったが、
「夜に電話を繋いだまま二人それぞれの事をする――かあ。そういうのは女子高生がしてるイメージだなあ。うーん。中学生の私達にはまだちょっと早くないかな。今は止めておこうよ」
私ははっきりと断ってしまった。
「そこからどんどんエスカレートしちゃいそうで」と適当な言い訳も付け加える。
「あー。そっかあ。そうかも。そのうち二十四時間ずっと電話を繋げておきたいとか思っちゃいそう」
何気ないももの呟きに私はドキリと不意を突かれてしまった。
思わず私は前言を撤回してしまいそうになる。
ももは「そっかあ」と残念そうにはしていたが案外と簡単に引き下がってもくれていた。私にとってそれは本当に魅力的な提案であったから、ももに重ねてお願いされていたら押し切られて「しょうがないなあ。じゃあ少しだけ」なんて頷いてしまっていたかもしれない。
それほど魅力的に感じていたももからの提案をはっきりと断ってしまった理由は、その電話を繋いでのアレコレは「十五年前」にはしていなかった事だから、だ。
その前段階、小野寺君を加えたももと三人での勉強会は記憶に残っていた。
確かに三人で自習をした。
記憶の中でも五人から始まってすぐに日高君と関さんが居なくなっていた。
今回の件は記憶と合致する。
けれども。夜に電話をしながらの勉強会はしていない。私の記憶には無かった。
ももの事は大好きだけれど。流石にももと交わした会話の全てを記憶しているわけじゃない。「今夜、電話してもいい?」だなんて遣り取りが「十五年前」にもあったかどうかは正直、分からない。覚えていない。だからといって、確実に無かったとも言えない。
ただ「夜に電話をしながらの勉強会」は確実にしていなかった。
提案の段階でもうこんなにもドキドキしてしまうイベントだ。無事に開催していたのなら忘れるわけがない。
そして。そこまでの提案ながら、当時の私なら断ってしまっている可能性は十分にあった。
「十五年前」の私には遠慮があった。葛藤があった。常に悩んでいた。自分で勝手に踏み止まってしまっていた。
何の奇跡か冗談か思い掛けずやり直せてしまっている今なら自分の気持ちにもっと正直になってももに誘われるまま、むしろこちらからももを誘って、思うままイチャイチャとしてみたいところだけれど。
ももと結ばれたあの夜をもう一度迎える為には我慢をしないといけない。
出来る限り「十五年前」と同じ道筋を辿りたかった私は涙を呑んでももからの誘いを断った。内心、大いに揺れながらも最後まで前言撤回はしなかった。
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