第4話
そう言えば、テレビのクイズ番組では偏差値の高い大学を卒業しているという芸能人達が小中学生レベルの問題に四苦八苦やら一喜一憂やらしていた。
普通の大学を普通に卒業して普通に働いていた二十九歳の頭では、もっと難しいと感じてしまって当然だろう。
試験やクイズ番組以外では使わない知識だ。普通に過ごした十五年の間に忘れてしまっている事も多いし、そもそもはじめから耳を素通りして頭の中にまでは入っていなかった知識も多い気がする。
このままでは不味いかもしれない。
中学生時代――十五年も前の授業内容なんて覚えている事の方が少ないくらいだ。
このままでは「当時」よりもずっと低い点数を取ってしまうかもしれない。
未来が変わってしまう――?
それは駄目だ。
ここは本気で頑張らないといけない。
ただ逆に点数を取り過ぎてしまって順位が一桁にでもなろうものならそれはそれで未来が変わってしまいそうだ。
「頑張り過ぎてしまわない程度に頑張ろう」
私の呟きを耳聡く聞いていたももが、
「はーい」
と返事をしてくれた。
「そうだな。急に詰め込み過ぎると溢れるからな」と小野寺君も同意してくれた。
それでも、私達三人は完全下校時刻の六時になるまで二時間以上も一生懸命に勉強してしまった。
その日の帰り道、
「綾香ちゃん。今夜、電話してもいい?」
帰路の途中で小野寺君とは別れて私と二人だけになった途端にももが言い出した。
「電話? 何? 今は話せない事?」
「今はっていうか。話したい事があるっていうんじゃないんだけど」
「ん?」
「綾香ちゃんと電話しながら二人でさっきの勉強の続きがしたいなあって」
ももからの意外なお誘いだった。
ももの成績は確か中の中の上程度でもも自身は勉強が好きでも嫌いでもないという印象だったが実際のところ、ももの本当の心持ちは他人の私には分からない。
「さっきの勉強、楽しかった?」
笑いながら私は聞き返した。
「んー。うん、んー」とももは曖昧に頷いた。
「綾香ちゃんと二人の方が良いかもって。それに関ちゃんも勉強は家でした方がって言ってたし」
「あれ。関さんは『家で一人で』した方がはかどるとか言ってなかった?」
私はちょっとだけイジワルを言ってしまった。ふふふと笑う。
「えー。だって。本当に一人だったら勉強しないと思うし。綾香ちゃんと一緒だったら頑張れると思うんだけど。ダメかなあ」
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