第3話
「了解。遠慮しないでいいからな」
「うん。そのときはよろしく」
私達――私とももと小野寺君の三人は今、放課後の教室で自習していた。私とももの教室だ。そこにクラスの違う小野寺君がやってきていた。
自習の目的は来週から始まる期末試験に備えてだ。日高君が「親友の小野寺君を巻き込んで」このお勉強会をセッティングしたが、自習の開始からわずか五分で「急用」を思い出して、言い出しっぺの幹事だったのに帰宅してしまった。
その際、日高君は私に何やら目配せをしていたような気もするが鈍感な私は何も察する事が出来なかった。十五年前は本当に。今回は意図的に。
更には誘ってもいなかったのに、
「私も教室で勉強しようかな。家だと集中できないから」
と自主的に参加してきたはずの関さんも開始から七分で、
「やっぱり家で一人で勉強した方がはかどるかも」
と、まるで日高君の事を追い掛けるみたいにして教室から出て行ってしまった。
あっという間に五人から三人だ。
こうなると気が抜けて、
「私達も帰ろうか」
「そうだな」
「はーい」
となりそうなものだったが。
この日の私達は何故か取り残された三人のまま自習を続けていた。
「ねえねえ。小野寺君」
ももが言った。
「クラスが違うと授業の進みって違うでしょ? 私達と一緒に勉強してて大丈夫?」
「え、あー」と少しだけ考えた後、
「多少の違いはあるかもしれないけど期末試験の範囲は一緒なんだから大丈夫だろ」
小野寺君はニカッと白い歯を見せて笑った。
何の笑みだろう。笑顔がこぼれるような答えだったろうか。
「小野寺君て頭良いの? 綾香ちゃんに教えられるくらい」
「あー。科学は得意ってか好きなんだ。他の教科は別にして科学なら自信があるぜ」
連続でももに話を振られて、小野寺君が張り切って答える。
その中学生男子らしい言動に私は「ふふふ」と微笑んでしまった。ももを巡る「恋敵」ながら、十五歳も年下の男の子だと思うと素直に可愛らしいと認めてしまえる。
「えー。綾香ちゃんだって頭良いんだからね。ね? 綾香ちゃん」
ももは言ってくれたが、
「どうかなあ。去年まではそれなりだったと思うけど。二年生になってからちょっと授業が難しく感じてるよ」
私は謙遜で予防線を張っておいた。
正直、心と頭は二十九歳のままだからと気を抜いていた。気楽に考えていた。高を括っていた。今更、中学生レベルの試験なんて楽勝だと思って問題集を開いてみたら意外や意外と難問だった。
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