第2話
十五年後。二十九歳。その最後の夜。三十歳を翌日に控えて私はずっとずっと好きだったヒトと初めて一夜を共にした。同じベッドで手を繋いだまま一緒に眠った。
そして目を覚ましたら中学生になっていた。戻っていた。十五年前に。
私はあの日に帰りたい。またあの夜を迎えたい。
今はまだ私の事を「LIKE」としか思っていない彼女ともう一度キスがしたい。
「好きだよ」とじっと見詰め合いたい。
諦める事も疑う事も忘れてただ幸せを感じ合いたい。
添い遂げたい。
私はももが好きだった。「LIKE」ではなくて「LOVE」だ。
小学生の頃からだ。中学生になってもまだ好きだった。
私は知っている。その気持ちは高校生になっても大学生になっても社会人になっても変わらない。私はずっとずっとももが好きだった。
その気持ちを抱えたまま私は今、中学生に戻っていた。
今から十五年後までの「好き」がこのまだ薄い胸には詰まっていた。
今の私は当時の私とは比べ物にならないくらいにももの事を愛してしまっていた。
そのせいだろうか。勘違いしてしまいそうになる。
「綾香ちゃん、好きー」
当時も耳にしていたはずのももの「好き」が「LOVE」に聞こえる。
「綾香ちゃーん」
腕に抱き付いてくるももの体温はこんなにも高かっただろうか。
十五年後の夜、ももは私を「好き」だと言ってくれた。
もしかしたら今の段階でももうその「好き」の芽ぐらいは出ているんじゃないか。「好き」の花はまだ咲いていないとしても。
いや違う。今のももは私の事を「LIKE」としか思っていない。私は知っている。
「――綾香ちゃん」
ももが私の名前を呼んだ。「ん?」と私は現実に目を向ける。
「ずっとずっと変な顔してる。そんなに難しいの?」
ももが私の手元を覗き込む。
私はノートにシャーペンの先を置いたまま「ずっとずっと」考え込んでしまっていたらしい。ノートの隣には科学の教科書も開かれていた。
「どこだ? 俺で分かるところなら説明するぞ」
小野寺君が言ってくれた。
「教科書の文章って逆に解りづらい書き方してるときがあるよな」
フォローも忘れない。いや中学生男子の発言だと考えると天然か。
小野寺君は根っから優しくて本当に良い男の子だった。
「んー。多分、大丈夫」と私は小野寺君からの提案をお断りする。
「でもありがとう。やっぱり後で聞くかもしれないけど。今は大丈夫」
これがフォローだ。二十九歳の社交辞令だ。
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