第8話

 

「考え方が間違ってるのか……?」


 もしかしたら「オダノブナガ・ベイカー」じゃなくて「アーチャン・テイラー」が入るとか。


 悪ガキどもの本当の目的は信長のマントを腐す事じゃなくて、信長の隣によく居るアーチャンの気を引く為とか。一緒に居ないときにもイジワルはされていたが信長のマントはアーチャンのパパが仕立ててくれたものらしいし。


 その線か……?


 相関図の外側に「アーチャン・テイラー」の名前を書いてみたところ、


「あ。ちがうよー」


 妹が言った。


「アーチャンはアーチャンじゃないんだよ」


「ん? アーチャンじゃない? 何の話だ?」


 俺が首を傾げていると「えっと」とアーチャン自身がまた補足をしてくれた。


「『アーチャン』はあだ名というか、そうよばれているだけで。わたしの名前はアケチミツヒデです」


「へえ。そうだったんだ。アケチミツ……――明智光秀!?」


「あ、はい。申しおくれました。わたしはアケチミツヒデ・テイラーです」


 とアーチャン改め明智光秀が言い終えるよりも先に、


「おーまえかぁー!」


 俺は光秀の胸ぐらを掴んでいた。叫んでいた。


「お、おにいちゃん?」と怯える妹を背後に隠して、


「お前が妹にイジワルをさせてたんだな! 近所のガキどもをたぶらかして!」


 俺は恫喝を続ける。


「そ、そんな。言いがかりです。しょうこはあるんですか?」


「証拠なんざ必要ねえ! 信長にイジワルをする陰の主犯は光秀に決まってる!」


 後から冷静になって考えると本当に酷い言い掛かりだ。前世と今世はイコールじゃないし今世は前世の続きでもないのに。俺は彼女が「明智光秀」だから「織田信長」である妹を害したのだと思い込んでしまっていた。頭に血が上ってしまっていた。


 しかし、


「な、なんで分かったんですか……。……すごい」


 今回に限っては正解だったらしい。光秀は怯えながらも熱い眼差しで俺を見詰めてきていた。俺は完全に興奮状態に陥ってしまっていた。


「お前が明智光秀だからだ! おい。これ以上、信長に手を出してみやがれ。お前、竹槍で脇腹を貫かれて死ぬぞ! いいか!? 死ぬんだぞ!!!」


「なんて具体てきな……。ああ、ああ……」


 8歳の少女が顔を真っ赤に染め上げて、あたかも恍惚の表情をこしらえていた。



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