第6話

 

 とはいっても12歳の俺には仕事がある。家の手伝いだ。


 我が家はパン屋を営んでいて店内にはちょっとした惣菜なんかも置いていた。


 俺はその惣菜の仕込みを手伝っていた。


 毎日毎日、早朝から昼過ぎまで野菜の皮をナイフで剥いている。


 作業場所は台所の隅で目の前の勝手口を開けて外に出れば斜向いの空き地にはすぐ駆け付けられるが、


「おにーいちゃーん!」


 助けを呼ぶ声を聞いてからでは当然、イジワルを未然に防ぐ事は出来ない。精々、妹が過度な仕返しをする前に相手を追い払うくらいの事しか出来ていなかった。


「これはもう抜本的な対策が必要だな……」


 赤地に黒い虎柄というド派手なマントを身に付けるようになって以降、妹は毎日のようにイジワルをされるようになってしまった。最初こそ口で悪く言われるくらいのものだったがそれも徐々にエスカレートしていき、最初のイジワルから数えて半月が経とうとしている今ではマントを引っ張って、無理矢理に脱がせようとしているのかマント自体を傷付けようとしているのかといったところにまできてしまっていた。


「止めろ。悪ガキ。もう二度と妹に近付くな。死にたいのか?」


 とか、


「お前の命ひとつで収まる話じゃなくなってくるぞ。家族を殺したいのか?」


 などと相手を泣かせるほどきつく叱っても強く忠告しても次の日にはまた別の子が妹にイジワルをしにくる。一匹潰してもまた一匹……が延々とだ。


「お前らの前世はGか!?」と人権を無視したツッコミを入れたくもなってくる。


 昨日も今日も、恐らくは明日も。10歳前後と思われる男の子ばかりが次々に、だ。


 俺の妹にイジワルをする事がガキどもの間で流行ってしまっているのか。


「流行って……。……うん? 流行らしてる人間が居るのか? もしかして」


 俺は単発のイジワルが次々に降り掛かってきているのだと思っていたが、それらの単発をまとめたこの一連が大きな一つのイジワルなのか?


「何のつもりか知らないが。この一連を操っている黒幕を突き止めてこらしめないと終わらないのか? いつまで経っても」


 まったく。何処の誰だ。陰湿なヤロウだな。


「……どうやって犯人を突き止めるか」


 まずはイジワルをしに来ていた人間を整理してみるか。


 悪ガキどもの素性を並べられれば、その繋がりから大本が辿れそうな気がするんだけどな。どうかな。やってみよう。


「信長。さっきの悪ガキは信長の知ってる子か?」


「ううん。しらない子だった」



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